「私には、方法が解っているわ」プリズナー・オブ・パワー 囚われの惑星 ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
私には、方法が解っているわ
本作が日本公開初挑戦となるフョードル・ボンダルチェク監督が、本国ロシアで高い人気を誇るワシリー・ステバノフを主演に迎えて描く、本格SFアクション。
昨年世界的に大きな話題となった、キリストの肖像画を許可なく修復し、見るも無残な姿に仕上げた事件は、皆様の記憶にも新しいだろう。この「見事な」観光資源を作り上げた張本人を先日どこかのテレビで特集していたが、いざ現れた姿は、何とも優しさに溢れた老婦人。地元はちょいと名の売れた「素人」画家で、例の騒ぎのあと、彼女の描く絵は値段が跳ね上がっているという。
「・・・へっ」である。
彼女は、「私は人物画の修復はしたことがないわ。でも、方法は分かっている。あの絵は、下絵の段階だったのよ」と自慢げにうそぶいていた。「方法を知っている」事と「絵の意味を知っている」事は、似て非なる別物。それらしく筆を撫で付けても、本質は濁り、腐り、いずれは朽ちる。そんな事も分からない人間に、修復の何たるかを語る資格があるだろうか。
・・と、鼻息荒く怒りを吐露したのは、本作「プリズナー・オブ・パワー」にも同様の違和感、稚拙な良心がべったり塗りたくられていたためか。
「ナイト・ウォッチ」の思わぬ成功で、評価が少しずつ見直されているロシア映画。その「ゆるり」香る昭和の風情に似た手作り感あるSF世界と、人間の深遠へと潜っていく精神世界に独特のセンスを感じ、映画ファンは飛びついた。だが、続編「デイ・ウォッチ」の成績は振るわなかった。ある種異質でつかめない新味の世界に、観客が辟易してしまったのは否めない部分だ。
で、本作は壮大な2部作を
「インターナショナル版」
なる舌なめずり丸出しの商業ベースに書き換えて、興行に乗っけた。これが、いけなかった。「ナイト~」の温かみのある人間描写と、レトロなSF空間を踏襲し、力のあるロシア色全開の我が国万歳!ワールドにバカバカしさと共に、楽しさが満ち溢れる映画人好みの演出は見事だ。
が
どうも「インターナショナル」に物語を切り刻んだ一部の方々には、この世界の調理が出来なかったようだ。いや、世界ではなく、映画という表現の料理が向いていない。
ひたすらにイケメン主人公、美人ヒロインのアップカットをつなぐ事に必死で、人間のドラマ、感情の起伏の繋がりが感動するほどに引きちぎられている。つい一秒前まで愛を囁いていたカップルのラブシーンのはずが、いきなり兄が怒鳴っていて、ヒロインは泣いている。「あんまりよ・・・」って、その編集が「あんまりよ・・・」である。
人間らしい臭さ溢れる敵役も、何か悪い事の要約を述べるシーンのみセレクトされ、同情も憤怒もできぬ。「ダイジェストですので」と営業さんが笑顔で断っても、これではロシアに関心を抱く方も萎えるばかりである。
「インターナショナル」に本作を飾りたいならば、一流の映画文法を使いこなすプロフェッショナルに料理させよ。あまりに失礼な「日本人なら、こんなもんかしら」映画に、ただただ情けなさと憤慨を覚える危険な一本だ。
ちなみに、冒頭の彼女の話。エセ修復画が飾られた寺院は急に入場料を取るようになり、町は潤いを実感しているという。それならば、その修復画も少しは「残り」甲斐もあろう。だが、本作はどうか。行きながらえばそれだけ、「ロシア、ひどいね」と陰口がぽつり、ぽつり生まれて落ちる。作り手に、映画ファンに、そしてロシア本国に平謝りでも足りない。
足りないのだ。