蟻が空を飛ぶ日のレビュー・感想・評価
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静と動と美と醜と善と悪と
殺人組織を『会社』、殺人を『仕事』と言うだけあって、健二や大道寺達が行う殺しは、機械的で効率的。殺す側と殺される側、双方の負担をなるべく減らすよう、工夫や努力さえ見える。一方の真紀は、無計画ではないのだけれど、衝動的で破壊的。特に第二の殺人は、理由も方法もあまりに生々しく、見ているこちらも息苦しくなり、画面から目を逸らしてもなお、夢に出てきてしまいそう(・・;)
ただ、懲りすぎたカメラワークやアングル、加工などは無いため、映像そのものはとても見やすく、目が洗われるような美しいシーンも随所に有り。前述の『第二の殺人』が無ければ、もっといろんな人にオススメできるのに…と思う反面、こういう対比が、この作品の魅力でもあるのかな?という気もしなくもない(若干 弱気)
その両極端さは、登場人物にも当てはまる。酷薄で冷淡で利己的で過激、でも、時に一途で純粋で穏やかで、小さな生き物に優しさを見せる。それが不自然でなく、意外に感情移入しやすいキャラになっている。←軽く言うならツンデレにギャップ萌え、そしてグロかっこいい?
返り血を浴びた姿が凄絶に美しい、本能に忠実な真紀と、抑えているのか希薄なのか、あまり感情を出さず、痩躯に儚さすら漂わせる健二。『最初の殺人』の動機も含め、対照的な二人は、通常なら有り得ない出逢いと再会を果たす。二人の間に、ほんのり恋愛コメディ(は、実は全然観たことないけど ^^;)っぽい雰囲気も流れるが、人を殺してこその巡り合いと思うと、ゾッとする部分もある。
そんな二人は、『会社』からの指令により、とある人物をつけ狙う。自分は主に健二の目線で見ていたため、気づくと、ターゲットの隙を必死になって探していた。無意識に、「そいつを殺して生き残れ!」と思ってしまっていたらしい(苦笑)ターゲットに入れ込んで観ていた場合、「志村―っ!うしろーっ!」的な気持ちになったのかな(爆)
ともかく、健二や真紀の非道な振る舞いを目の当たりにして、それでも応援したくなるって、なかなか無いかも。
(人を殺した人間が)幸せになるのは罪ですか?
映画のチラシにあった問いに、自分は明確な答えを出すことができない。殺されたのが知人なら、あるいは悪人なら、等々、あらゆるケースを考えてしまうから。かわりに、この映画を観て抱いた問いを返してしまう。
あの人達が、他者の命を奪い続けたと知りながら…幸せになってほしい、と願ってしまったのは、罪ですか?
人間のもっとも基本的な活動の一つ
生きることへの本能を描いた作品である
この映画での殺しとは他者の命を奪い己の糧とする
人間のもっとも基本的な活動の一つである狩猟のことだ
それは多くの現代人が忘れているこの世界の原則、殺らなければ己が死ぬという単純な図式
だれもがその業からは逃れることができない
そして人は死が隣り合わせだと自覚すればするほど愛を欲し求める
生き延びて己の生きた痕跡を残すためには愛がなければならない
真実の愛にお互いが一緒にいた時間の長さなど関係がない
残酷さが万物を支配している掟ならそれに抗うことが生なのだ
現実にはハッピーエンドもバットエンドもない
終わらせることではなく続かせることそれが本能の本質
蟻が空を飛ぶ日とは、まやかしではなく生というものを真っ直ぐ描こうとした意欲作である
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