「「芝浜」が圧巻」スクリーンで観る高座 シネマ落語&ドキュメンタリー「映画 立川談志」 sow_miyaさんの映画レビュー(感想・評価)
「芝浜」が圧巻
中島岳志の「思いがけず利他」という本の中で、かなりのページ数を割いて、談志の「文七元結」に関わる話が書かれている。娘が自身を借金の形にして得た50両を、長兵衛は帰り道に出会った身投げをしようとしている文七に渡してしまうという不可解な行動。この本を読むと、談志は、その長兵衛の振る舞いについて長らくスッキリしない思いを抱え、その時々でのベストを探りながら演じていた様子が伝わってくる。
この映画の中でも、「芝浜」の女房に対して、かなりの悪態をついているインタビュー場面があり、同様なスッキリしない思いがあるだろうことが伺える。だが、本編中の高座の中では、これまでに見たり聞いたりしてきた様々な落語家の「芝浜」と違い、談志ならではの、女房の「業」を前面に打ち出した「芝浜」になっていて、すっかり心を鷲掴みにされた。
談志の言う「イリュージョン」とは、演者観客双方が、その中に心地良く浸れる「創造された世界観」と受け取ったが、談志自身がその演目の納得解を探り続けた上で、登場人物それぞれに自由に振る舞わせてその世界観を創り出してきたのだろう。
今更ながら談志中毒になってみたくなった。
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