メリエスの素晴らしき映画魔術のレビュー・感想・評価
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映画を進化させた男の栄華を描く
映画の黎明期を支えた映画監督ジョルジュ・メリエスについて描いたドキュメンタリー。誰もが手探りで撮影を行っていた映画創成期、世界初のSF映画やSFXの発明など、後の映画制作に多大な影響と功績を残した偉大な映画監督の栄枯盛衰を描く。
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『月世界旅行』などで知られる映画監督ジョルジュ・メリエス。93年に見つかった彩色版の『月世界旅行』のフィルムを復元する過程を追いながら、彼の半生をまとめたドキュメンタリー。
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最近『ホドロフスキーのDUNE』という映画制作ドキュメンタリー作品を鑑賞したばかりですので、それと比較しながら結構楽しく観ることができました。
「映画」というものがリュミエール兄弟によって発明されたのが1895年であり、メリエスが撮影機を入手して映画制作を始めたのが翌年の1896年です。つまり、メリエスは映画の歴史において、最初期の映画監督と言うことになります。当然ながら映画ができたばかりのため、今では当たり前な映画制作のノウハウなんてありませんから、本当に手探り状態での映画制作だったと思います。
偶然によって生み出された世界初のSFX。世界初のSF映画。自らの映画スタジオを立ち上げ、彩色によってカラーフィルムを制作。後世まで語り継がれるに値する偉大な人物であるというのは誰の目から見ても明らかです。
しかしながら、映画業界のスターに上り詰めた彼に待ち受ける転落。その理由が「飽きられた」からという…。何とも言えない気持ちになりますね。地球の極地を描いた映画『極地征服』が、実際の北極の映像が世に出回ったことで興行的に大失敗に終わってしまったというのは、現実を超越したファンタジーを描いてきたメリエスが現実に敗北したと言えなくもない気がします。
スタジオ閉鎖の際に大量にあったフィルムを焼却してしまったため、あれだけ出回っていたメリエスの作品が現在では入手が極めて困難になっているものも多い。燃やしちゃ駄目ですね。アタリの『E.T.』のゲームのように、売れ残ったものは埋め立ててしまえばよかったのに。今となっては後の祭りですが。
映画の歴史を知る資料として非常に優秀な映画だったと思います。メリエスの功績と転落をまとめたドキュメンタリーなので映画的な盛り上がりみたいなものは無く、面白いかと問われれば微妙ですが、少なくとも勉強になったし観てよかったと思える映画でした。オススメです。
未来を創りだした魔術師の素晴らしさ
なんとなくタイトルで見てみました。事前情報もメリエスという人そのものも全くわからないまま…少し失礼でした…
映画を見た感想は…本当に素晴らしいアーティストがいて、素晴らしい映画があったんだ…ということをとにかく思い知らされた映画でした。
飛行機も開発されておらず、ムービー自体がメジャーではなく、世の中から可能性が疑われていた時代に、その可能性を信じ、さまざまな技術革新を起こし、SFXの基礎を作ったとされるメリエス。
その功績はいまさら語るでもないですが、この映画でもっともクローズアップされているのは、月世界旅行の素晴らしさです。
まだまだ宇宙というものが遠く、多くの人々が遠い月に思いをはせてさまざまな寓話が生まれた時代だったんだろうなぁと思うと妙にセンチメンタルな気分になってしまいます。
そんな時代に、映画を使って自らの想像を表現、多くの観客を月世界に誘い、虜にしたのでしょう。それは単にメリエスの想像力が優れていただけではなく、だれも見たことのない、月への旅をメリエスが映像化することができたからこそでしょう。
メリエスはその後も多くの作品を生み出し、世の中を虜にしていくわけですが、栄華は長くは続かず…。
自らの映画が世の中のニーズに合わず取り残されて行くなかで、すべてを失い、自分のフィルム500本を焼き払ってしまう。
拡張した映画作製所を閉めるシーンでの最後のあいさつにも見える皮肉な映像。あれだけ人々を虜にし、かつ、ただ時代のトレンドだっただけではなく、現在に脈々と継がれるSFの基礎を作り上げたといっても過言ではない、メリエスにしてこの最後を迎えるというのが何とも悲しく、「アーティストのようなドラマって本当にあるんだ…」と唖然としてしまいました。ただ、そのドラマチックな人生も、メリエスの作り上げたさまざまな素晴らしい映像を色あせさせないようになのか、過剰に盛り上げることなく、淡々と語られていく作り方にもとても好感を持ちました。
そう、メリエスはただ、失意で終わったのではなく、これだけ素晴らしい映像をいくつもつくりだしたのだから…そう思わせるに足りる構成に感謝です。
終盤戦は月世界旅行を再度映像化させるために奮闘した人々のストーリーに変わりますが、ここでもやはりメリエスの映像が現代の人々をも離してやまない様子がわかりますし、本当にリストアは多くの人の信念がなしえた業だったということが身にしみてわかりました。そして、その信念を貫いて長い年月をかけてでも、再生させたかったという人々の思いを突き動かしたのは、100年の時を超えても色あせないメリエスの作品そのものだったのでしょう。やはりメリエスは素晴らしいものを残したのですね。
この作品の映像はどれも秀逸で、中でもカラーを着色したそのファンタジー感は、今の時代が3DやCGを駆使して、どんどんリアルを超越しようとしているからなのか、とても新鮮で芸術を見ているような感覚に陥りました。ましてこれがテレビも飛行機もない時代にうまれたものだとしたら(実際にそうなのですが…)とてもすごいことですよね。
映画というものの素晴らしさだけでなく、創造することの素晴らしさ、そして本当に素晴らしいものは100年の時を超えても色あせない…そんなことを感じる映画で、さらに、押し付けることなく、素直に心に響く構成が本当に良かったです。
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