劇場公開日 2012年11月9日

  • 予告編を見る

「映画になったサーカス」シルク・ドゥ・ソレイユ3D 彼方からの物語 キューブさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0映画になったサーカス

2012年11月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

興奮

幸せ

「Michael Jackson: The Immortal World Tour」も今年度前半期のツアーで世界最高の興行収入をたたき出すなど、順調に巨大化し続けるシルク・ドゥ・ソレイユ。正直この映画の宣伝が始まったとき、「あー、ついに映画にまで手出しちゃったか〜」と否定的であった。とは言いつつも、なんだかんだ言ってシルク・ドゥ・ソレイユ大好きなのでIMAX3D版で見に行ってしまった。

 映画はいつものシルク・ドゥ・ソレイユのショーと同じく、主人公が現実世界から幻想の世界へ旅立つシーンから始まる。エリカ・リンツが比較的小柄だからか、どことなくエキゾチックな容姿も相まって既に現実じゃないような気もしたが。

 その後は狂言回しの役割を果たすピエロに誘われ、消えた「エアリスト」を探す旅に出る。基本コンセプトはこんな感じである。実際は今現在、常設シアターの形式で興行されている"O" "KA" "Mystère" "Zumanity" "Criss Angel Believe" "Viva Elvis" "Love"("Viva Elvis"のみ今年の8月31日に終了)の場面を本映画用に撮影。若干演出の違いはあるものの、ほぼ正確に再現されている。

 特筆すべきは3D効果による映像美であろう。今回はIMAXで見たというのもあるが、普段では見ることのできない角度から撮影された数々のパフォーマンスはかなり見応えがある。その「映画」ならではの効果を最大限に使っていたのが"KA"の垂直に立ち上がる床での戦闘シーン。普段の観客は真正面からしか見ることができないが、今回は真横から映すことであたかも水平な場所で闘っているかのように見せている。スローモーションも上手く使われていて、非常に臨場感溢れる仕上がりとなっていた。

 だがそのスローモーションそのものははっきり言って良くない。というのも、要所要所で上手く使っている場合もあったのだが、ほとんどのシーンはスローモーションを使うことで逆に迫力が失われていた。シルク・ドゥ・ソレイユ特有のスピード感溢れるパフォーマンスを台無しにしていた。安易に使うことでいかにも映画的な「カッコイイ」演出が逆に作用してしまったのだ。しかし、先ほども挙げたように「映画ならではの観点」で作り上げたのは評価できる。"O"の水中の映像は間違いなくここでしか見られない。

 もう一つ良かったのが(というかこれが見たくて鑑賞したようなものだが)、"Love"の音響だ。ビートルズとのコラボレーションで生み出されたこのショーは、ビートルズの楽曲をふんだんに使用している。この映画では"O" "KA"と共にフィーチャーされていて、頻繁に登場した。他のショーはDVD化されていて見ようと思えば見られるのだが、"Love"は製作過程のドキュメンタリーのみなので、正直かなり嬉しかった。しかもIMAXのサラウンドでビートルズの楽曲が聴けるとなると、そりゃテンションは上がる。

 ほとんどのショーはラスヴェガスなど遠い場所での上演だから、なかなか見られないショーを見に行くという意味でも非常に価値がある。改めてシルク・ドゥ・ソレイユの素晴らしさ、そして商魂のたくましさを思い知った。なにしろ、全てのショーが良いところで次のに切り替わるから、ちょっとずつ物足りないのだ。これを見てしまうと、本物を見に行かずにはいられない。
(2012年11月25日鑑賞)

キューブ