劇場公開日 1958年8月24日

真昼の惨劇のレビュー・感想・評価

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3.5DVを扱った古典作品

2021年2月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

冒頭、「松竹」のロゴと「歌舞伎座」プロダクションの文字が出るものの、商業エンタメ映画とは対極にある作品だ。
ストーリーは、本サイトの“ネタバレ”の通り。
尊属殺人という、衝撃的な“実話にもとづいた”時事映画らしいが、“エクスプロイテーション映画”ではなく、直球勝負で切り込んだ社会派の劇映画である。

「バタヤ」という言葉は初めて知ったが、組織化された日雇いの廃品回収労働者のことらしい。
彼らの無許可集落は、映画を観る限りスラムと称しても良いが、貧しさを別とすれば、人間らしい暮らしは営めているようだ。
作品の全体の基調としては、厳しい環境を頑張って明るく生き抜いていくバタヤ集落の人々を描いている。心温まるシーンもあって、暗くて悲劇一辺倒の映画ではない。

ただし作品内容は、始まってほどなく、「バタヤ」そのものからは無関係になる。
映画のテーマは、現在に通じる、貧困とアル中が原因のDV(ドメスティック・バイオレンス)なのだ。
今なら行政に窓口があるので、ここまで追い詰められる前に、(うまくいくとは限らないが)何らかの対応が取られるはずで、幸いこういう展開にはなりづらいと思う。

この作品で良かったのは、俳優の演技である。
働かないで暴力を振るう夫によって、疲労困憊となって家出するしかなくなった妻(望月優子)。
けなげに頑張る娘2人。幼くてまだ状況がつかめない息子。
左卜全をはじめ、住民を演じる俳優も良い。
やや残念なのが、内弁慶のDV夫(福原秀雄)の演技がイマイチなこと。目の色を変えて酒をグビグビ飲むシーンは良いのだが、ある種の“怖さ”がなく、「ちょっと違うなあ」感がある。
DV映画でありながら描写はかなり控えめで、その過酷なリアルは、何らかの制約で描けなかったのかもしれない。

“現代のDV”を扱った古典作品と言えるのかもしれないが、DVDなどメディア化はされておらず、なかなか観る機会もなく、また観たいという人も少ないだろう。
ただ、今の映画と違って、“ひねり”をきかせることなく、真っ直ぐに観客の心に訴えかけてくる良さがあって、ちょっと変わった鑑賞経験ができた。
昔の白黒映画も、いいものである。
<「実話にもとづく・・・」(@ラピュタ阿佐ヶ谷)にて鑑賞>

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Imperator