劇場公開日 1955年9月21日

「石坂ワールド全開!」くちづけ(1955) 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5石坂ワールド全開!

2024年8月30日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

1955年。算正典、鈴木英夫、成瀬巳喜男監督。石坂洋次郎原作の短編を3人が監督するオムニバス。独特の女性像を描いた石坂ワールドが全開。とくに、筧、鈴木の両監督作には(原作に由来すると容易に想像がつく)理屈っぽいせりふ回しやくすぐりが多く、動きが停滞しがちなのだが、そこで思考を揺さぶられる不思議な心地よさがある。自然のロケーションによる解放感が率直すぎる人物像と合っている。特に第二話の中原ひとみは思春期の微妙な感覚と天真爛漫さを兼ね備えたすばらしい演技をしている。石坂作品の人物は自然のなかで生き生きとする。一方で、成瀬監督は構図としてはさすがとしかいえないすばらしい構図に収まっているが、ほぼセットなので、石坂作品の良さが出ているとは言いがたい。よくも悪くも成瀬作品であり、成瀬作品ならほかに名作がいくらでもあると思ってしまう。全体的にはすばらしいものを観た感覚が残る。
石坂洋次郎の女性像については、三浦雅士「石坂洋次郎の逆襲」(2020)に詳しい。

文字読み