「今の歴史観で本作を観ると、あまりのアナクロさに引いてしまうほどですが、そういう時代だったということです」殴り込み艦隊 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
今の歴史観で本作を観ると、あまりのアナクロさに引いてしまうほどですが、そういう時代だったということです
殴り込み艦隊
1960年10月公開
東映京都製作、白黒作品
主演は高倉健
戦艦大和から、小さな駆逐艦黒雲に転勤してきたパリッとした青年士官役で登場します
黒雲はどうやら終戦後まで生き延びた奇跡の駆逐艦雪風がモデルのようです
小さな駆逐艦黒雲はまるでヤクザ一家のように艦長を親分とした家族的な団結で奮闘する様を描きます
ガダルカナル輸送作戦、レイテ沖海戦、沖縄特攻作戦に黒雲一家の奮闘を描き、ラストにさらに架空のもう一戦に向かうところで終わります
殴り込み艦隊というネーミングはレイテ沖海戦の事とヤクザ一家の殴り込みをかけたものになっています
途中に芸者との淡いロマンスも織り込まれます
原作小説もあって、ある程度の実話をネタにしたのであろうというリアリティがあります
ロケも実際の駆逐艦を使用したものでチープさはあまり感じません
しかし、時あたかも60年安保闘争真っ盛りの世情の中での公開です
当時の左翼の方々の反発が容易に想像できます
戦争への反省も無く、戦前への逆コースを賛美する映画だ!けしからん!と
1952年に米国の占領が解け、こうした映画も自由に撮れるような世の中になりました
そうすると雨後の竹の子のようにこのような戦争映画が多数撮られるようになりました
本作もその一つという訳です
理由としては、一つは戦時中は国民に全く知らされなかった戦況の推移を映像にして振り返って紹介しようという目的でしょう
もう一つは、戦後復興が進み、ようやく戦争を過ぎ去った過去として振り返る心の余裕ができたからかと思います
かといって戦前に戻りたいというのか?というと全然違う
単に、本当はこうだったのか、実はこうだったんだということを知りたいという国民の自然な欲求だったのだろうと思います
それであまりにも重大に過ぎた結末に至った戦争を各自の心の中にどう始末していくのか、それを国民それぞれが進めていたのだと思います
映画界がその国民の思いを汲み取り映画を作るのは至極当然の事であると考えます
それに特撮の神様円谷英二を擁する東宝がこのジャンルでは強くヒット作を連発していましたから、東映もあやかりたいという理由ももちろんあるでしょう
今の歴史観で本作を観ると、あまりのアナクロさに引いてしまうほどですが、そういう時代だったということです
21世紀に本作を観る意味や意義はあるのでしょうか?
恐らくないと思います
高倉健の格好良さを観るのみでしょう
戦国時代のお話みたいなものです
ある意味時代劇みたいなものなの
かも知れません
ただ一つ言えるのは、こんな映画なんてと無かったことにはできないということです
こういう映画が求められた時代があったということです