霊魂の不滅

解説

「生恋死恋」「波高き日」等に主演したヴィクトル・シェーストレム氏が監督、主演をした心理表現劇で、全篇殆ど二重露出ばかりである。原作はスウェーデンのノヴェル賞金受領者セルマ・ラーゲレーヴ女史で、スウェーデンのアーヴィングと呼ばれて居るシェストロム氏が主演を兼ねている。無声。

1920年製作/スウェーデン
原題または英題:Thy Soul Shall Bear Witness Korkarlen

あらすじ

大晦日の晩の出来事である。救世軍の女士官で、人生に対し温かい心を抱いて居るエディス・ラーソンは重い病の床に苦しんで居た。彼女が死の床にあっても尚心に懸かるのはデイヴィッド・ホラムの事であった。ホラムは仕方の無い酔払いで、妻や子のあるに拘らず、この晩も教会の庭で除夜の鐘を待ちながら飲み仲間と酒をあおって居た。彼は仲間に彼の友人ゲラーの事を話した。心理学に深い造詣を持つゲラーは大晦日の十二時に死んだ者は次の一年間死神の馬車の御者と成って、悲しみ、罪、絶望のある所、陸と海とを問わず、貧しきと富めるに係わらず死者の魂をその馬車に積み取る為に労々として働くものだと信じて居た。そして彼は去年の大晦日深夜の十二時に死んだのである。ホルムが話し終わってから程なく仲間同志わずかの事から争って、彼は墓石の上へ打ち倒された。折から崇厳に教会の鐘は十二時を報じて響いた。死神の馬車は音も無く教会の庭へ入って来た。ホルムの霊魂は、今死神の御者であるゲラーの霊魂に肉体を離れて呼び起こされた。ゲラーの霊魂はホルムに向かって今迄彼がその妻及び女士官エディスに対して行った非行の数々を挙げて責めた。そしてゲラーはホルムを縛り上げてエディスの死の床迄引きずって来た。エディスは尚も神にホルムの改悛を祈って居た。彼女の清い柔らかい声を聞いたホルムの霊魂は戦った。そして眼のあたりエディスの死を見せられた上、我が家へ引っ張って来られた。彼の妻は絶望の極自殺を決心して居た。しかし霊魂であるホルムには彼女を止める肉体が無かった。暴風の様に悔悟が彼の身を責めた。彼は始めて膝まづいて神に祈った。--死神は真に改悟せる彼の霊魂を再び肉体に返した。ホルムは失心から愕然として醒めた。彼が我が家に走り帰った時、彼は妻の自殺せんとするのを危うく止める事が出来た。それから後、ホルムは生まれ変わった男と成った--。感激深い物語である。

全文を読む(ネタバレを含む場合あり)

スタッフ・キャスト

全てのスタッフ・キャストを見る

映画レビュー

4.5 悔悟や信仰の体験を、時間構造の操作と映像の重ね合わせで表現

2025年11月1日
PCから投稿
鑑賞方法:その他

サイレント映画の黎明期において、これほど成熟した構成と倫理観を持つ作品は稀だと思います。『霊魂の不滅(Körkarlen)』は、死神の馬車にまつわる伝説を軸に、人間の罪と救済を描くスウェーデン映画であり、ヴィクトル・シェストレム監督の代表作です。主人公デビット・ホルムは酒に溺れ、家族や仲間を失った男。大晦日の夜、死神に導かれて過去の人生を振り返るうちに、自らの罪と向き合い、ついには悔悟に至ります。

この映画の最大の特徴は、死神の導きによって過去を何度も遡る時間構造にあります。いわゆるフラッシュバックを物語全体の枠組みとして導入し、過去と現在を往復する形で主人公の内面を描いた点が画期的でした。1910年代までの映画では、物語は直線的に進行するのが常であり、時間を“構造”として扱う発想はまだ定着していませんでした。『霊魂の不滅』は、死と回想、現在と過去を編集によって結びつけることに成功した最初期の作品のひとつであり、後の『市民ケーン』や『サンセット大通り』、さらにはベルイマンの心理映画にも通じる「映画的時間の操作」を先駆的に実現しています。

技法的にも、二重露光を用いた霊的表現が印象的です。現実の風景に霊の姿が重ねられることで、「生と死の境界」が視覚的に現れます。当時としては驚くべき映像技術であり、単なる特撮ではなく、世界の二重性そのものを映し出す“宗教的メタファー”として機能していました。

物語を支えるのは、救世軍の少女の存在です。彼女は信仰と献身によってデビットを救おうとしますが、彼の結核をうつされ、若くして命を落とします。現代的な視点では報われない犠牲と映るかもしれませんが、当時のキリスト教的価値観では、信仰と隣人愛に殉じた生き方こそが“善”であり、命よりも神の意志が上位にあるという倫理観が支配的でした。彼女の死は悲劇ではなく、魂の完成、すなわち“正しい生”の成就として描かれています。

『霊魂の不滅』が映しているのは、単なる贖罪劇ではありません。それは、「信仰」「倫理」「時間」という三つの次元がまだ分離していなかった時代の精神そのものです。信仰が倫理を支え、倫理が時間の意味を形づくっていた時代――その世界観の中で、人がどのように“救い”を見ていたのかを、映画という新しい媒体が可視化した奇跡のような作品だと思います。

100年以上前の映画でありながら、今見ても“生と死のあいだ”を見つめる視線は静かで力強い。映画の原点にして、人間の内面を描いた最初の偉大なドラマのひとつです。

鑑賞方法: Youtube

評価: 85点

コメントする (0件)
共感した! 0件)
neonrg

4.0 男性であること

2024年3月25日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

ドライヤー『あるじ』もそうだが、北欧も結構toxic masculinity ミタイなもので自家中毒になるみたいなことが多い(多かった)のかな。それを客体化して映画にできている点は進んでいるということかもしれぬが。/鳥飼りょうさんの伴奏付き上映で鑑賞。

コメントする (0件)
共感した! 0件)
ouosou

他のユーザーは「霊魂の不滅」以外にこんな作品をCheck-inしています。