劇場公開日 1983年3月18日

民衆の敵(1976)のレビュー・感想・評価

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4.0民主主義を主張する独裁者

2020年7月17日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 1882年にノルウェーのヘンリック・イプセンによって書かれた戯曲(翻訳:アーサー・ミラー)を映画化した作品。どんな温泉地なのか見てみたくなるほど、舞台劇のようなこじんまりとしたセットで作られていた。これがもっと大掛かりだと満点かな。

 ノルウェーの温泉のある小さな町キルステン。観光収入も伸び、発展しつつあったが、医師トーマス・ストックマンは独自に水質調査を行い、そこには細菌による汚染がある事実を掴む。それを親しい新聞記者ビリングやホブスタットに伝えると、政治家、役人の不正を暴きたいとホブスタットは躍起になった。しかし、その思惑も町長ピーター自らが否定し、トーマスの陰謀論を唱えるのだ。

 そんなトーマスはピーターの実弟。兄弟喧嘩もここまでくると異常なほどだ。町長としての権力、権威主義を振りかざし、町の発展のためには温泉の導管を再工事するわけには行かぬ。仮に工事しても30万クローネもかかるし、町が工事費を負担するため増税已む無し。しかも工事期間は2年かかり、その間町の観光収入は無くなるのだと訴える。観光客に感染症が広まってもいいのか?!という疑問には、すべてトーマスのデマである・・・と反論する。

 恐ろしい田舎の人たち。もう、町民はほとんど町長支持者だ。講演会を開いても、寝返った編集長が議長となり、トーマスに喋らせない。彼が計画した講演会も町長の独壇場になってしまうのだ。そして、採決・・・何を採決するんだ?「トーマスに喋らせない」「トーマスを民衆の敵と認める」「トーマスとは一切口をきくな」という採決だよ、おぞましい。トーマス支持者は親友のフォースター船長だけになってしまう。

 ここまででも見るのがしんどくなる展開なのに、さらに凄い展開があるのです。村八分だけは嫌だ!と思いつつも、義父にあたるキールが面白いし、手の平返すような人間も愚かだと痛感する。また、民主主義=多数決だと信じている人にはぜひ見てもらいたい映画だ。マジョリティがいつも正義か?キリストの処刑を反対したか?ガリレオの地動説はどうだ?

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kossy