「リー・ヴァン・クリーフになれなかった男」地平線から来た男 TRINITY:The Righthanded Devilさんの映画レビュー(感想・評価)
リー・ヴァン・クリーフになれなかった男
『マーヴェリック』や『ロックフォードの事件メモ』などTVのヒットシリーズも多いジェームズ・ガーナーが、『夕陽に立つ保安官』〈1968〉や『西部無法伝』〈1971〉とともに、この時期たて続けに主演したコメディ西部劇の一作。かつて民放地上波各局がロードショー枠を抱えていた頃、名作でもないのに頻繁に放送されてた記憶がある。
対立する二つの勢力が争う街に流れ者がやって来るという基本設定は『荒野の用心棒』〈1964〉と同じ。ほかにもいくつかのパロディが含まれていると思うが、それよりも触れておきたいのが主人公の相棒ジャグを演じた脇役俳優ジャック・イーラム。『夕陽に立つ保安官』でも似たような立場でガーナーと共演している。
『刑事コロンボ』でスターになったピーター・フォーク同様、若い頃の怪我で片目を失ったイーラムはその特徴的な人相で西部劇映画の脇役俳優として多数の作品に出演(と言っても、ほとんどが端役だが)。
実は、彼とよく似たキャリアの人物がもう一人いる。
イーラムより五歳年下でその独特の容貌から数多くの西部劇に出演するも、やはり端役ばかりで役に恵まれず。しまいには交通事故で膝を傷めて医者から馬には乗るなと言われ(つまり西部劇には出られない)俳優としてはセミリタイア状態。
そんな男にまたとない転機が訪れたのは1965年。
世界的に大ヒットした『荒野の用心棒』の続編『夕陽のガンマン』で主演のC・イーストウッドの相棒に抜擢されて鮮烈な印象を残し、一躍マカロニ・ウエスタンのトップスターとなったリー・ヴァン・クリーフである。
イーラムも遅ればせながら1968年にイタリアに招ばれ、セルジオ・レオーネの大作『ウエスタン Once upon a time in the west』に出演。『真昼の決闘』〈1952〉をイメージした冒頭の場面で主人公を待ち受ける三人組のリーダー格・スネーキーを貫禄たっぷりに演じ、少ない出番ながら、個性的な印象を醸し出している。
本作のラストでの「俺はマカロニ・ウエスタンの大スターになる」という彼のセリフは、これらを踏まえてのことなのだろう。
しかし、哀しいかな、マカロニ・ウエスタンのブームはその後下火に。イーラムにL・V・クリーフのようなスター街道の扉は開かなかった。
ほかに見所がある訳でもない本作、自虐ネタにしか聞こえないイーラムの最後のセリフが、ただただ悲しい…。
NHK-BSにて鑑賞。