「恐らく史上初のパニック映画にして、永遠の手本」桑港 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
恐らく史上初のパニック映画にして、永遠の手本
サンフランシスコを聞こえたままに漢字で当字して桑方西斯哥港、略して桑港
1906年のサンフランシスコ大地震をクライマックスに据えています
地震のシーンは戦前の映画とはとても思えない見事な特撮で迫力満点です
ちゃちいだろうなという先入観は良い方向に裏切られます
きちんと当時の資料や記録を当たったりもしたでしょうし、製作当時の30年前の事ですから存命の人も多いでしょうから、その地震と大火災、避難所の様子など嘘ぽさは全く感じません
70年代のパニック映画と違うのは、その大災害のシーンが占める分量で、本作は冒頭でいつ起こるのかを宣言して、ドラマ部分のクライマックスにぶつけてくる形で全篇パニックをテーマにしているわけではないというところです
大災害に至るまでのドラマ、なぜその大災害がそのクライマックスに起こるのかのテーマ性がしっかりしているのが、本作を傑作としているポイントだと思います
聖書のソドムとゴモラにサンフランシスコをなぞらえて、悪徳の街が神の怒りに触れて破壊される
それを人間は為すすべもなく、悪徳は打ち砕かれ、人々は改心して新しい街の建設にむかう
歌姫と2人の男の物語はそのテーマを物語にするためのものに過ぎないのです
なので、本作の題名は桑港なのです
主人公はクラーク・ゲーブルではなく、サンフランシスコなのです
タワーリングインフェルノや、本作の直系の子孫と言える大地震などには、このようなテーマ性は皆無です
只の見せ物映画になってしまってます
本作のような、なぜその時に大災害が起こったのか?
その大災害は登場人物達の魂にどのような衝撃を与えたのか?
その大災害は人間に取って一体どのような意味をもって神が試練を与えたもうたのか?
このようなテーマ性を少しでも意識して継承できていたのは、ポセイドンアドベンチャーだけでしょう
日本は地震国であり、阪神大震災、東日本大震災は言うにおよばず、毎年何らかの大災害が起こっているのです
このようなしっかりとしたテーマ性を持ったパニック映画で世界に誇れる傑作を日本映画こそ生み出すべきでは無いでしょうか?
このテーマ性はキリスト教でなければ生まれ無いと言うものでも、宗教でなければならない事でも無いはずです
劇中、ヒロインがクライマックスで歌う、サンフランシスコの歌は、1980年代にサンフランシスコ市の正式な市歌になっているそうです
パラダイス劇場のあるバーバリーコーストは、昔は下町中の下町のギャングや売春宿がゴロゴロする怖い繁華街だったそうです