「モラルの限界点を往復する自慰の快楽と狂気」R-18文学賞 vol.1 自縄自縛の私 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)
モラルの限界点を往復する自慰の快楽と狂気
蓄積したストレスから逃れようともがいた末、SMに快楽を目覚めてしまったOLの告白記
SMと云えど自らの手で身体に縄を喰い込ませ、刺激を楽しむセルフ式
愛好会が強制的に縛り上げる『花と蛇』とは対照的な恥辱の持て成し
地産地消ならぬ自縄自縛の世界やから、かの団鬼六先生もさぞ驚きの緊縛空間である
『深夜食堂』での健気な客が印象深い平田薫が持ち前の癒やしキャラを活かしつつ、体当たりでプレイに挑む大胆さのギャップに驚くものの、メニューは服から亀甲縛りと外出、放置程度で所詮、自慰行為の延長線上に過ぎず、エロス自体はおとなしい
むしろ、彼女の秘密を知った安藤政信&津田寛治の上司コンビの視線の方が危険なオーラを発しセクシーだった
肉縛SMに付き物の浣腸・磔・蝋燭・鞭打ち・三角木馬etc.のお仕置コースはおろか、吊しすら無い随分控え目な構成は、『花と蛇』シリーズで育ったマニアにとってエロスの満足度はほとんどゼロ
せめて、縛る時は常に全裸で取り組むべきである
着衣のままのSMなぞ生温く、問題外の中の問題外
せっかくゲスト出演してくれた杉本彩女王様が勿体無い
彩様の勇姿を少しは見習うべきだ
しかし、仕事も恋も家庭も雁字搦めの日常で、更に自分で自分の自由を拘束し、鬱憤を解消しようとする等身大の危なっかしい心理表現は純粋に興味深かった。
平常心を装おうとすればするほど人間性が崩壊するエキセントリックなキャラクター描写は竹中直人監督ならではの不条理な面白味が詰まっている。
そんな気だるい男女の絡み合いを見下ろすと、かつて静岡シネマ通りに在ったポルノ小劇場を思い出してしまった
やたらカビ臭い我が青春時代を振り返りながら、最後に短歌を一首
『肌刻む 荒いあやとり 晒す悦 こころ置き去る 春のなめしや』
by全竜