劇場公開日 2012年4月28日

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「ヒューマンな感動作を求めている方や愛の力を信じている人ならぜひ鑑賞をお勧めしたい作品です。」ジョイフル♪ノイズ 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ヒューマンな感動作を求めている方や愛の力を信じている人ならぜひ鑑賞をお勧めしたい作品です。

2012年4月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 音楽も演技もとても楽しくて心温まるストーリーでした。『天使にラブソングを…』から20年。同じようなハートフル・ヒューマン・コメディを待ち望んでいた人には必見の作品です。
 マイケル・ジャクソン「鏡の中の男」やスティービー・ワンダー、ポール・マッカートニーらのヒット曲をアメリカの田舎町のおばさんたちが歌い込むこんで、全米ゴスペルのコンテスト“ジョイフル・ノイズ”に優勝することを目指すのが、本作の基本ライン。
 田舎町のおばさんたちだからといって、冒頭の劇中曲「鏡の中の男」から、プロ顔負けのパフォーマンスで、唄の中に込められた深い愛の思いに打たれました。
 こんな素晴らしい聖歌隊が、なんで毎年地区予選で優勝できないのか。その理由は明白でした。本来は自由であるべきゴスペルにも、保守的な伝統にこだわる教会とそうでなくよりハードにも、ロックにテンポアップさせて自分たちの愛の思いの強さをノリノリで伝えるというニューウェーブがコンテスト大会でせめぎ合っていたわけですね。
 本作のパカショーの聖歌隊は牧師の厳格な指導方針の下、衣装から選曲、振り付けまで古き良き伝統を厳格に守り継いでいたのです。音楽的にはかなりのレベルでも、コンテストのインパクトではニューウェーブな聖歌隊のほうがどうしても見栄えが上回り、毎年惜敗していたのでした。
 今年のコンテストも惜敗したあと、中心的な女性シンガーであるヴァイとG.G.の間で深刻な路線論争が勃発。ヴァイは聖歌隊の新指揮者として伝統を頑なに守ろうとする立場。信仰も教条的で、融通が利かないところが難点。一方のG.G.は資産家で教会の援助者しているのだというプライドを持っていてヴァイを上から目線で見下しているのです。夫と別居状態となり、生活が苦しいヴァイは、資産家のG.G.に嫉妬して、資産家ぶることに神経を薙ぎ立てます。そんなぎくしゃくした中に、G.G.の孫ランディが聖歌隊に加入して、ふたりの対決は決定的に。音楽センス抜群なランディは、もっと自由なパフォーマンスができる聖歌隊を目指し、団員たちと接触していきます。その中で、事も有ろうにヴァイの娘と恋仲になってしまいます。
 加えてG.G.は当然孫を支持して、ヴァイと対決姿勢を強めます。何から何まで思い通りに行かなくなったヴァイは聖歌隊の指揮者を降り、脱退してしまいます。そんな中で、聖歌隊は、全国大会出場のチャンスを掴むのです。でも、バラバラになった聖歌隊が優勝するためには、ヴァイの強力な指導力が必要でした。また頑なに伝統にこだわる牧師を説得し、全国レベルの自由なパフォーマンスを取り入れる必要があったのです。
 隊員たちのコミカルなやりとりの合間に、パカショーの不景気で沈み込む街の表情が何度も挿入されます。聖歌隊の躍進は聖歌隊だけでなく、街の人の希望そのものだったのです。それを誰よりも聖歌隊の隊員たちが強く受け止めていたのでした。
 自分たちの街が沈みこんでいる。何とか自分たちの優勝で元気づけたいという思いが次々と奇蹟を呼び込み、ラストの感動を強めました。結末はほぼ予想しえるストーリーながら、直球でバラバラだった団員の心が一つにまとまっていく姿は、感動的なんですね。

 それにしても本作で描かれるヒューマンなメッセージは何と素敵なんでしょう。ヴァイの息子ウォルターは、こころに障害を持ち、何事にも人を恐れ、コンプレックスで閉じこもっていたのです。そんなウォルターに近づこうとするランディの台詞がグッときました。姉を口説こうとしていたので打算かと思いきや、誠心誠意でウォルターのピアノの才能を引き出していこうとするのですね。
 そんな好青年だから、オリビアとの恋の語らいも凄く好感が持てました。そんな兄姉のこころのお荷物になっていたのが母親ヴァイの強い信仰心でした。絶対自分が正しい信仰に導かれていると確信していたヴァイは、結果的に愛とは逆の裁きに徹し、愛の名のものとに夫を追い詰め、息子をこころの病に押し込み、娘を反抗的にさせていたのでした。
 子供たちの苦しみが自分にあったことを認めたとき、独りで祈るように歌うヴァイのシーンには、涙しましたね。
 キリスト教には、中道の概念や、自らの誤りを客観的に見つめる正見・正語・正思の反省の観点が抜けているため、いきなり両極端にぶれたり、聖書の言葉で教条的に裁きやすいという落とし穴があって、愛を強要するあまりに、愛とは逆の裁きになりやすいものなのでしょう。ヴァイの場合筋金入りで、息子を許しても別居した夫を許さず、復縁を仲介しようとしたオリビアと大喧嘩になってしまいます。そのとばっちりで、ランディとの恋人関係まで解消。聖歌隊ばかりでなく、ヴァイの一家までバラバラになっていたのでした。

 こんなストーリーだからこそ、歌に込められた、愛の素晴らしさ、そしてどんなときも人をつなぎ止めていく愛の力強さをを感じさせる作品となっています。
 ヒューマンな感動作を求めている方や愛の力を信じている人ならぜひ鑑賞をお勧めしたい作品です。

流山の小地蔵