劇場公開日 2012年6月23日

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「【70.1】ブレイクアウト 映画レビュー」ブレイクアウト honeyさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 【70.1】ブレイクアウト 映画レビュー

2025年10月8日
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作品の完成度
本作『ブレイクアウト』(原題:Trespass)は、ジョエル・シュマッカー監督がアカデミー賞俳優ニコラス・ケイジとニコール・キッドマンを起用して挑んだ、高級住宅での監禁劇という密室サスペンス。結論として、豪華なキャスティングと緊張感あふれる設定のポテンシャルを、脚本の欠陥と過剰な演出で自ら減殺してしまった、不完全燃焼の作品。
設定は強盗団に襲われたダイヤモンド・ディーラー一家という、古典的な「ホーム・インベージョン」もの。強盗と家族がそれぞれ抱える裏の事情が露呈し、事態が二転三転する心理戦を売りとする。しかし、その「どんでん返し」の連続が、物語の論理(ロジック)を破綻させ、登場人物の動機や行動原理を曖昧にする結果を招いた。批評家からの評価は極めて低く、映画批評集積サイトRotten Tomatoesでの支持率は10%という厳しさ。特にプロットに対する批判が集中し、一部ではスペイン映画『スペイン一家監禁事件』との類似性も指摘された。豪華キャストにもかかわらず、批評面では「B級サスペンス」の域を出ないという評価が大勢を占める。映画の核となるはずの緊張感が、説得力の欠如により、次第に安っぽい騒動へと変質していく過程は、非常に残念な完成度と言える。最終的な興行収入も制作費を大きく下回り、商業的にも失敗作と見なされる結果となった。
監督・演出・編集
監督は『フォーン・ブース』や『オペラ座の怪人』で知られるジョエル・シュマッカー。限定された空間でのサスペンス構築に定評のある監督だが、本作ではその手腕が空回りした印象。
監督・演出:豪華で広大な豪邸という舞台設定は、密室劇としての圧迫感を高める要素としては機能。しかし、カメラワークやカット割りが過度にダイナミックで、登場人物の感情や緊迫した状況をじっくりと見せるよりも、表面的なアクションや混乱を強調する方向に傾斜。豪邸を舞台にしたにもかかわらず、シュマッカー特有のケレン味や過剰な演出が、心理スリラーとしての深みを削いでいる。
編集:強盗団と家族、双方の思惑が絡み合う状況をスピーディーに見せようとするが、場面転換や情報提示のペースが速すぎて、観客が物語の核心的な秘密や裏切りを理解し、感情移入する間を与えない。これがロジックの破綻や混乱を助長し、全体的に「とっちらかった」印象を与える一因となった。
脚本・ストーリー
脚本はカール・ガイゼシュク。ストーリーは、ダイヤモンド・ディーラーのカイルと妻サラの豪邸に強盗団が押し入るという基本構造。強盗団の目的が単なる金庫破りではないこと、カイルとサラの夫婦それぞれが強盗団には知られたくない秘密を抱えていることが判明し、極限状況での心理戦が展開される。
最大の問題点は、「秘密の開示」と「どんでん返し」の乱発。一見複雑でスリリングなプロットに見えるが、その後の展開を優先させるため、キャラクターの過去の行動や動機付けに一貫性がなく、強引な展開が目立つ。特に強盗団側の人間関係や内部分裂の描写は浅薄であり、緊迫感のある状況を自ら希薄化。密室劇の醍醐味である「嘘と真実の境界線」が、脚本の都合によって簡単に揺らいでしまい、物語全体の緊張感を持続させることができなかった点が、本作の最大の欠点である。
映像・美術衣装
映像・美術:舞台となるミラー家の豪邸は、森の中に佇む巨大でモダンな建築物。富裕層の生活を象徴する美術セットは、視覚的には豪華で、外部から遮断された密室空間としてのムード作りには成功。監視カメラやセキュリティシステムの描写も、ジャンル的な期待感を高める。しかし、その豪奢さが、強盗団の計画の杜撰さや行動の愚かさと対比されることで、皮肉にも彼らのリアリティのなさを強調してしまう結果にもつながった。
衣装:カイルのスーツやサラのドレスなど、夫婦の衣装は富裕層の生活を反映したもので、強盗団のラフで武装した服装との対比が際立つ。しかし、特筆すべき芸術性やテーマ性を内包したものではなく、あくまで設定を忠実に表現した実用的な美術デザインに留まる。
音楽
音楽はデヴィッド・バックリー。全編を通じて緊迫感と不安感を煽るオーケストラ主体のスコアが使用される。密室スリラーとして必要な緊張感のある音楽は提供しているものの、特に印象に残るメロディやテーマはない。
主題歌:本作に特定の主題歌は存在しない。
キャスティング・役者の演技
ニコラス・ケイジとニコール・キッドマンというオスカー俳優の共演は、公開当時大きな話題を呼んだ。一部の批評家は、脚本の欠陥にもかかわらず、俳優陣の演技自体は評価している。
主演
ニコラス・ケイジ(カイル・ミラー:ダイヤモンド・ディーラー)
極限状態に追い込まれた富豪の夫を演じる。強盗団に対し、家族の命を守るために交渉術を駆使し、虚勢と本音を織り交ぜて立ち向かう役柄。彼の代名詞ともいえる、ヒステリックで感情的な演技スタイルが、極度のストレス下に置かれた男の混乱を表現。しかし、物語後半、カイルが抱える秘密やその行動の支離滅裂さが脚本によって強調されるため、彼の熱演は時に空回りし、オーバーアクトに見える瞬間も。ケイジの持ち味である狂気的なエネルギーは発揮されているが、役柄の薄っぺらさが、演技の深みを妨げたことは否めない。
ニコール・キッドマン(サラ・ミラー:カイルの妻)
強盗に人質に取られながらも、美しさと冷静さを武器に状況を打開しようとする妻を演じる。キッドマンは、恐怖と献身、そして夫への複雑な感情を抱える女性という、多層的なキャラクターを巧みに表現。身体的な監禁状態と、精神的な秘密の暴露という二重の苦痛を、繊細かつ説得力ある演技で乗りこなす。彼女の演技は、荒れたプロットの中でも、一服の清涼剤として機能。特に強盗団のリーダーとの間で繰り広げられる心理戦の描写において、役者としての格の違いを見せつける。
助演
ベン・メンデルソーン(エライアス:強盗団のリーダー)
強盗団の主導者であり、カイル夫妻に金庫の解錠を迫る男。メンデルソーンは、その陰鬱で威圧的な雰囲気を最大限に活かし、知的な冷酷さと内面的な焦りを併せ持つ強盗犯をリアルに描写。他の強盗団員との間で生じる緊張感や、夫婦に対する優越感の変遷を、抑揚のある演技で表現し、作品に重厚感を与える。強盗団の中では最も説得力のあるキャラクターとして、高い評価を得た。
カム・ジガンデイ(ジョーナ:強盗団のメンバー)
強盗団の中で最も若く、サラに執着を見せる危険なメンバー。衝動的で感情的な行動が目立つ役柄で、物語の進行において強盗団の内部分裂を決定づける存在。ジガンデイは、その若さゆえの不安定さや残忍性を、視線や体の動きで表現。メンデルソーン演じるリーダーとの対立構造が、密室劇の緊張感を一層高める要素となっている。
リアナ・リベラト(エイヴリー・ミラー:カイルとサラの娘)
強盗団に襲われた夜、外出していたために難を逃れるが、後に物語に深く関わることになる反抗期の娘。極限状態の親たちを、外側から見つめる視点を提供。役柄の重要性は高くはないが、事件の目撃者、そして夫婦の愛の証として、物語に感情的な重みを加える役割を果たした。
アカデミー賞および主要な映画祭での事実
本作は、第36回トロント国際映画祭でプレミア上映された。しかし、主要な映画祭での受賞・ノミネート歴はなし。
作品 Trespass
監督 ジョエル・シュマッカー 98×0.715 70.1
編集
主演 ニコラス・ケイジB8×2
助演 ニコール・キッドマン B8×2
脚本・ストーリー カール・ガイダシェク B6×7
撮影・映像 アンジェイ・バートコウィアク B8
美術・衣装 美術ネイサン・アマンドソン 衣装
ジュディアナ・マコフスキーB8
音楽 デビッド・バックリー B8

honey
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