「原作は未読」ノア 約束の舟 モアイさんの映画レビュー(感想・評価)
原作は未読
ノアの方舟といえば三沢光晴が設立したプロレス団体かゲームソフト「リンダキューブ」(95年)かトヨタのミニバンの方が多くの日本人には馴染みがあると思うのですが、原作は世界的なベストセラーである旧約聖書の『創世記』に記されたエピソードの一つです。
旧約聖書からの映画化と言えば「十戒」(56年)が有名ですので、今作も十戒のように荘厳で神秘的な悠久の歴史に思いを馳せさせるような作品である事は想像に難くありません!と画面に正対し厳かな気持ちで鑑賞を始めました。
しかし映画の鑑賞を始めて早々、何か様子がおかしいことに気づきます。
画面に映る堕天使さんたちを見て「あっコレそういう映画か…」と、凝り固まった姿勢を崩し、ゴロ寝で横になりながら鑑賞を続けます。
映画というのは大抵、冒頭の数分間で「この映画はこういう映画ですからそのつもりで鑑賞してくださいね」と観客に対してサインを出しているものです。それを受けて観客はその映画を鑑賞する際の心構えを確認して映画に臨みます。
大抵の場合は予告編で完了している行為ですが、それでも本編で最終的なチューニングを施すのが映画です。
そして様々なジャンルの映画を鑑賞する(できる)人ほどこのチューニングの領域が広いのだと思います。(そしてこのサインが上手く出せていない映画は『何がしたいかわからない』とよく言われている気がします)
一人の少女が闘病の末、亡くなる映画に涙した人がいたとします。そしてその人が一人の英雄が悪人とはいえ大多数の人間を殺傷する映画に熱狂したとしても何も異常な事ではないように、人とは状況に応じて物事を楽しむ姿勢を柔軟に変えることが出来るのです。
その点でこの映画は早々に「これは『十戒』のような映画ではないので、どうぞ足を崩してください。」としっかりサインを出してくれましたのでこちらも気楽に鑑賞することが出来ました。その点、とてもちゃんとした映画です。
映画が促したとおりリラックスして観れば、堕天使さんたちの健気さが際立ちます。
罪を犯した人の側についた天使の成れの果てが堕天使さんです。
堕天使さんたちは文明の発展にも力を貸してくれましたが、人間は彼らを裏切ります。なので当然人間不信です。それでも神の啓示をうけたノアに力を貸してくれる堕天使さんたちの勇姿は本作の見所の一つです。
ノアはラッセル・クロウの見た目通り、融通の利かない石頭で神の僕に徹します。ただ勘違いしてはいけないのが、ノアは自分だけが高潔なつもりで他の人間を見下していたわけではありません。自分の中にも隙あらば堕落してしまう心がある事を自覚したうえで必死に自分を律しています。
その結果、自身の家族への愛情をも断ち切ろうという悲壮さで、家族はそんなノアについていけません。
しかし最後の最後にノアは家族への愛情にほだされてしまいます。ただ、直前まで家族に対して非情な決断を強いていた後ろめたさと、神の御心に沿わなかった(と自分では思っている)事から、家族とも距離をとり、一人海岸で酒を煽り、酔いつぶれ、全裸で寝てしまう様な鬱屈した日々を送ります。……何故に全裸なのか?ノアの苦悩は計り知れません。
ノアの妻を演じたジェニファー・コネリーも相変わらず綺麗でしたが、母として当然肯定されるべき愛情をノアに訴えても、それは神の御心に反すると突っぱねられる、あんまりな役を好演しています。ただこの人はどんなにキャリアを積んでも「ウジ虫プールに沈められた娘」という事実がいつまでも付いて回る事を思うと、映画界とは恐ろしいものです。
原作未読のため原作を知る人とは感覚がズレていると思いますが、1つの映画作品として、なかなか楽しみました。
こんにちは
この映画、観たことはあります。
ダーレン・アロノフスキー監督作は、キリスト教の考え方で
物議を醸す印象です。
独特な考え方の変わった視点が多いですね。
いつも問題作と言われますものね。
「レスラー」は好きですし、「ホエール」は素晴らしい映画でした。
「孤狼の血」に共感ありがとうございます。
原作者が女性なので驚きますね。
はい、19日(金)には映画館へ行ってきました。
この日だけ26℃でちょっと涼しかったのですが、今日の最高気温は33℃を
ちょっと超えてしまいました。
ドラマ「春までの祭」
本当に心に響く良い作品でしたね。
教えて頂いて本当に感謝です。