劇場公開日 2012年11月23日

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「エンターテインメントと質のバランス」カラスの親指 wallckさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0エンターテインメントと質のバランス

2013年1月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

知的

幸せ

評論家の、長部日出雄の絶賛評を読んだので観ようと思ったら、もう東京でしか上映していなかった。
あまり客が入らなかった様で、と言っても私自身存在すら知らなかったが、色々な意味でとてももったいない。確かに今どきここまで考え抜いて作っている映画は、そうそう無いと思う。

今どきの映画と言えば、不必要なカットだろうが取り敢えず積み重ねて、観客の思考を奪う方が良しとされるぐらいなのに、この作品は無駄ひとつ無いカット構成で、むしろ観客の思考を 引き出すように作られている。
逆に、不要なものとして捨てる事が美徳の様になってしまっているカット間の間や、いわゆる行間に一 つ一つキチンと意味があって、2度観るとそれら全てが計算されていた事が分かるのは、まったく長部さんの言う通りだった。

とは言いながら、出演者などを見ても明らかに 普通の商業映画ので、そんな事をしても苦労するだけで、得は少ないだろうと素人でも思っ てしまうが(あくまで、それを正当に評価する 人種が少ないだろうという意味で)、パンフレットを読んでいる内に何となくその意味が理解出来た。
この監督はもう20年以上映画界にいる様だが、インタビューからは相当な危機感というか覚悟が感じられる。特に「人によって、 感じる面白さにバラツキが生じても構わない」 とか、「ほんの一握りのひとでもいいから」という言葉は印象的で、言ってみれば観客の思考こそが、映画業界を救う鍵だという想いなのだろう。

そう考えてみると、なんだかんだ言っても面白い娯楽映画にしている所がこの「カラスの親指」の一番の価値で、監督の狙いもまずは多くの人に見て貰う事が前提だったろうに。
そういう意味でも、人知れず終わってしまうのは非常にもったいなかった。
取り敢えずは、エンターテインメントと質のバランスをここまで極めたというだけでも、かなり貴重な作品だと思う。

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wallck