「限りなくストイックだが底なしにハッピー」ビル・カニンガム&ニューヨーク chibirockさんの映画レビュー(感想・評価)
限りなくストイックだが底なしにハッピー
NYタイムスのファッションページ写真家として名を馳せるビル爺さん。
トップスター、市井の人々、若者、老人、子供、被写体になる人間は様々。
自分の目には一貫してブレがなく、カトリーヌ・ドヌーブが目の前を通りかかろうと、彼を突き動かすものがなければシャッターは切らない!
仕事には完璧を求めるビル爺さんだが、それでいてシャッターを切る時の表情は子供顔負けの好奇心をたたえている。
なんて楽しそうに仕事をする人なんだ、いや、彼にとってこれはもはや仕事ではないのだ、人生だ。
その証拠に、「金がからむと自由にならない」と、給料の小切手を破り捨てたこともあるという。
日々、ゴージャスなファッションを身にまとう人々を追いかけているのに、当の本人は小狭いアパートの一室に、仕事道具満載のキャビネットに圧迫されるように暮らし、安ければ安いほどいいというサンドイッチを食べ、20ドルで購入した路上清掃人の上っ張りを着続ける。「カメラにこすれてすぐ破れるのに、良い服を買うなんてもったいなくて」
良い服、美味い食べ物、甘い恋愛にかまけている暇はない、爺さんは撮りたくて撮りたくてしょうがないのだ。
「欲のある人間は長生きする」と言われているが、この人も「撮りたい」欲でこんなにハツラツとしてるわけだなとナットク。
流行ばかり気にして制服かよと思うほど同じ服を着ている集団ではなく、自分が着たい物を自分の流儀で着てそれが自分のスタイルになっている本当にカッコいい人たち、それを撮るビル。
画面いっぱいに映る人間が強烈に生きている。こっちまで元気になる。
「ファッション」とうものは本来チャラチャラしたもんではなく、人の生きざまを表現する立派な文化なんだと実感。
おかげで朝の洋服選びも格段に楽しくなりました。
映画館まで4駅分歩いてきたが、帰りも10駅分くらい歩いてしまおうかと血迷わせるほど、
この爺さんにテンション上げられた〜。