ミラノ、愛に生きるのレビュー・感想・評価
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削ぎ落とすほどに、能弁に、美しく
「オルランド」以来のティルダ・スウィントン主演でなければスルーしていたかもしれない作品。私にとっては、「ミラノファッション」も、「美しい料理」も、「ヴィスコンティを彷彿させる映像美」もさほど意味を持たず、「上流社会の美しい妻が息子の友人と恋に落ちる」…という有りがちかつ愛憎渦巻きそうな筋立てへの懐疑は捨てきれなかった。けれども、そんな先入観は冒頭で鮮やかに打ち崩された。キリリとした弦楽を背景に、どこか重苦しいミラノの雪景色が俯瞰され、やがてカメラは大きな屋敷へ舞い降り、凛としたヒロインを捉える。粛々と進められる一族の晩餐会。思いもよらない静謐さに息をのみ、またたくまに映画に引き込まれた。
ヒロインをはじめとして、(悲劇を背負う息子を除く)彼らは皆、泣いたりわめいたりしない。それでも、水面下では激情がうねっている。ちょっとした仕草、表情の揺らぎは、言葉以上に深く雄弁だ。そして、彼らが見聞きしたであろう青空や木漏れ日、鳥の声や水音、彼や彼女の息遣い、衣擦れや足音も。
また、ドラマを掻き立てる服装の使い分けや変化も興味深い。ロンドンに留学している娘はスカートを履かない。去り行くヒロインのため、家政婦はカバン一杯に服を詰めるが、装飾具の数々はテーブルに放置される。そして、最後に彼女が選んだ服装とは…。関連メーカーは快哉し、彼女をコマーシャルに起用したいと思うのではないか。
同じくイタリアが舞台、ティルダとちょっと顔立ちが似ている気がするケイト・ブランシェット主演、クシシュトフ・キェシロフスキの遺稿をトム・ティクバが監督した「ヘヴン」がふと思い出された。ぎりぎりまで削ぎ落とした男女の物語は、道徳や世俗を容易に飛び越え、どこまでも美しい。
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