朱花(はねづ)の月のレビュー・感想・評価
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無味無臭だからこそ露わとなる恋への性
タイトルの《朱花》とは、万葉集にも登場する朱色の花。
血や太陽、炎、命の象徴らしい。
奈良の山村で、その色を用いて、染色家を営む中年女性は、地元紙の編集者と同棲しながらも、幼なじみの木工作家にも未練を残し、2者の間で愛が揺れ動く。
自然に包まれた濃密な静寂に押し潰れそうになりながら、重なり合う三角関係は、愛おしく、そして生々しい。
ざらついた透明感がさらけ出され、人間本来の狂気が吐露される。
脆く色褪せ易い愛の儚さが、朱花の意味に直結しており、各々の呼吸の気まずさが切ない。
また、戦後直後に急死した祖父の恋物語も同時進行し、時代を超えた男女の慕情は、幻影的で観る者を戸惑わせるが、あのジワジワと浸る男女の温もりと違和感こそ川瀬直美ワールドの真骨頂なのかもしれない。
のりお師匠や樹木希林etc.ちょこちょこゲスト出演しているものの、主役3人はほとんど無名なので、世界観の透明度を牽引していく。
そういえば、朝ドラの尾野真千子は川瀬組の常連やったね。
個人的な意見甚だしいが、もし、彼女が主役やったら、もっと感情移入できたのかもしれない。
つまり『萌の朱雀』の方が好きかなって事である。
今作の、いや川瀬作品の特徴は、恋の甘さや苦さを省いた無味無臭の表現法であろう。
人間の感情そのものを一切無視しているとも云える。
感情が爆発した時、その瞬間ではなく、余韻を重視しているクリエーターやと思う。
一定した波の起伏。
故に、どの作品も取っ付きにくくて仕方ない。
評価に困る。
でも、嫌いではなく、むしろ好きな部類に入るから不思議である。
同棲相手の明川哲也の声ってどこかで聴いたことあるなぁとずっと思っていたが、途中で、ロックバンド《叫ぶ詩人の会》の元ボーカル・ドリアン助川やと、やっと気付いた。
学生時代、この人のラジオ好きで、よう聴いてたんやぁ。
ドリアン助川の正義のラジオ!ジャンベルジャン〜〜!!♪
懐かしいわ〜
今作の方向性とは全く異なる位置でセンチメンタルになったところで、最後に短歌を一首
『血をなぞる ざわめきの痕(跡) 眼は虚ろ 愛待つばかり 駕籠の燕よ』
by全竜
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