劇場公開日 2011年9月24日

  • 予告編を見る

「彼らの旅について行きたくなる」さすらいの女神(ディーバ)たち マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0彼らの旅について行きたくなる

2011年10月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

楽しい

幸せ

マチュー・アマルリックは頭のいい人なんだと思う。構成の確かさ、強弱のアクセントを付けつつ、するするーっと自分の世界に引き込む。監督も巧いんだなーと思った。
俳優としても申し分なし。意気揚々とフランスに舞い戻ったものの、既に彼の居場所はなく、パリの公演で凱旋する目論見はおろか、日々の興業もままならない。そんな落ちぶれた自分への怒りを外に向けてしまう、人の弱さと脆さを表現した。

それにしても、元カリスマ・プロデューサーだったというジョアキム、過去にいったい何人の女を泣かせてきたのだろう。詳しく語らないところがまたいい。それでも重要なところには印象に残る女優を配している。入院中の女性ディレクター(フロランス・ブン・サドゥン)が正にそれだが、“語らずして語る”ジョアキムの過去といったところだ。
まだまだ懲りていないジョアキムと、ガソリンスタンドの女性(オレリア・プティ)が交わす会話も楽しい。こうして、一見無関係なシーンをさりげなく挟んでくる。そして、女優の顔を印象づける演出が実に巧妙だ。

役者ではない本物のバーレスク・ダンサーたちがまたいい。あの手この手で楽しませるパフォーマンスはもちろんだが、とても映画初出演とは思えない演技を披露する。とくに“白い羽根2枚を使ったダンス”を披露するミミ・ル・ムーがいい。ショーに疲れ、アテのない旅に疲れ、愛に飢えた孤独を見事に表現した。自殺でもするんじゃないかと目が離せなくなる。

人生を賭けながら、終わりの見えない旅に苛立つ彼女らの目は本物だ。「これは俺の舞台だ」というジョアキムに、「これは私たちのショーだ」と豪語する彼女たち。反目しながらも寄り添う一座。ここまできたら、もう前に進むしかない。居直りとも狂気ともとれる彼らの人生。なんか彼らの旅について行きたくなる。

エンドロール中に入る彼らのお喋りに字幕を入れてほしい。あの会話の内容が分かったら、終わりの印象が違ったものになったかも知れない。

マスター@だんだん