ドリーム・ホームのレビュー・感想・評価
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ようこそ、日本へ!!
香港の鬼才、パン・チョーホン監督が、ジョシー・ホーを主演に迎えて描く、ヴァイオレンス・スリラー作品。
本作をもって、パン・チョーホン監督の作品は日本初上陸となった。ラブストーリー、コメディ、ホラー・・幅広い作風を観客に披露し続けてきた香港の気鋭が、この奇妙奇天烈、かつ知的な風刺に溢れた意欲作を我が国にぶち込んできてくれた偶然と、幸福に今はただ、賞賛を送りたいと思う。
地価が上がり続ける香港の不動産事情。その不可解な社会情勢に対して、映画人が挑む方法は数限りない。ドキュメンタリー、人間ドラマ、風刺コメディ、ここら辺りならば多くの人が「してやったり・・」と果敢に描こうとする手段だ。だが、本作はその現代への違和感と、怒りを血で血を洗う壮絶スプラッターで表現してしまった。こんな規格外の路線に、わくわくする。
布団圧縮袋を筆頭に、一見すると殺人兵器には到底なり得ない日常の品々を華麗に使いこなし、あの手この手で八つ裂き物語が展開される。もちろん巷には同様の手法を用いたスプラッターホラーが雨後の筍の如く存在している。だが、本作を貫いているのは変貌を続ける社会において、金や、土地や、保険やらで踊らされる私達現代人への鋭い観察と、警告だ。
狂気に溺れ、暴力と殺戮に身をやつしてみても、常に人間につきまとう敗北と、違和感。目を覆うような残酷劇場にも、他のスプラッターにある爽快感や開放感が滲み出てこないのは、新しい暴力への視点、関心、諦め。全ての要素が本作を、心に深い悲しさと空しさを刻み込む新次元ホラーの可能性へと高めている。
知的に、時に本能に忠実に、人間の欲望と限界を如実に描く力を見せ付けるパン・チョーホンの世界。ここには、勢いだけのヴァイオレンスはない。ただ、人が生きていく上でぶち当たる、世界に押し潰される現実が色濃い。
ようこそ、日本へ。今の私達に最も突き刺さる痛みが、ここにある。
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