「タイトル相違。」ロック わんこの島 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
タイトル相違。
フジの情報番組「めざましテレビ」の人気コーナー「きょうのわんこ」で
紹介された実話を基に、というところで、あれ?こんな話あったっけ?と
思ったんだけど、よくよく観たらこれは「マリ」と同じような作り方の作品、
実話ベースで、まったく違う構成に作り変えられたもの。
だから実際のロックは、これと同じ運命は辿っていないのだ、少し安心…。
しかしこれ…^^;どう観ても犬が主役とは思えない。(それなのにロック)
どちらかといえばやはり被災者家族、先日の震災被害に遭われた皆さんと
同じく、避難家族の4年以上にわたる帰島に向けた闘いを描いた作品だ。
なのでそれなりに観る価値はある。
どれだけの想いを残し、土地を離れ、それでも前向きに頑張る避難家族を
見ていると、確かにこちらも早く帰れるようにと応援したくなる。
人間ドラマとしては、やはり震災の記憶もまだ冷めやらない現在だからこそ、
もう一度考えて見直す点がたくさん垣間見れる描き方ではあった。
彼らが島を愛し、大噴火に憤るどころか、早く帰りたいと願うその気持ちは
一心同体、震災被害に遭ってもその土地を離れたくないと留まる人々と同じ。
自然の摂理を然と分かっているから、誰も何をも責め立てたりはしないのだ。
(津波被害に遭われた地域の人が海や河川の悪口を言うのを聞いたことがない)
…そこへいくとどうだろうか。
被災地でもない地域の人間たちが、やれホットスポットだ、汚染されている、
水がダメ、肉がダメ、外へ出るのもダメ、子供や孫が危ないから市や学校を
訴えては何とかしろ!と喚きたてる両親や祖父母がたくさんいるのだという。
私の住む地域でも、子供の運動会が父母の要請で半日になったという話や、
地元産の食物は危ないから遙か遠方まで調達する人々もまだいると聞いた。
まぁ…価値観は人それぞれである。が、私には理解できない。
そんなに怖いなら引っ越せばいいのだ、気になるのなら食べなければいい。
何なら海外へでもどんどん逃げて、あるなら安全大国でも見つけなさるといい。
自分や家族が被災地の人間なら、そんなこと言ってられるか?と思うのだ。
(子供や孫にかこつけて、本当は自分の身を守りたいのが一番だと分かる)
住み慣れた土地を愛せない人間が、安全神話なんて語ってるんじゃねぇよ、と
そんなニュースを聞く度に憤ってしまうのは私だけだろうか。
…しっかりと話がそれました。
このロックなんだけど、、、三宅島出身のロックは、生まれた時からずっと
この島で民宿を営む野山一家と暮らしてきた。ひとり息子の芯はロックの育て親
となり可愛がっていたが、2000年のある日、島を大噴火が襲う。全島民避難…と
なったその日まで頑張ってきた一家もついに避難を余儀なくされ、ロックは一時
預かり所へと連れて行かれるのだが、そこで逃亡、家族と離れ離れになってしまう。
東京では両親と離れ学校で寮生活をする芯、遅れて到着した父親はロックのことを
芯に正直に話すのだが、、やがてロックが島で見つかり保護される。早く家族で
島に帰ることを期待する一家だったが、帰島への道のりは予想以上に長くなり…。
こないだの、星守る犬…の感想とダブるんだけど、
多分今作が共感されないひとつの要因は、このロックの扱い方なのだと思う。
まずロックが育ってきた映像が少なすぎて、芯がロックを育ててきたにしては
二人の絆が見えてこない。そこへきて避難、ほぼ離れ離れで犬と戯れる描写もない
まま、保護されたのちは里親の元へ…という変遷を辿り、まったくロックの描き方が
おざなりなのである。ちっとも「わんこの島」じゃないじゃないか!島に取り残された
ロックが生きていた!なんていう感動的な場面ですら、描写が曖昧。何だ、あれは。
家族が苦しんでいる間、ロックはもっと苦しんだわけでしょう?そこを描かずにして
すぐに里親って…あまりに酷い。ただ獣医師(原田美枝子)の言葉には、私も同感。
ペットショップの犬たちと同じなのだ。あの箱の中でストレスを感じないワケがない。
早く出して自由にしてやり、犬らしい生活を送らせたい。それが、飼い主としての
責任となるのだ。あんな小さな子に、と劇中でも変な研修生^^;が口を出しているが、
飼い主の役割に大きいも小さいもない。責任は責任である。そして大好きな家族と
離れ離れになる辛さを知ったこの子だからこそ、と、獣医師はハッキリ告げたのだ。
そのアドバイスをきちんと受け止め、考え、ロックを里親に引き渡す決断をしたこの
芯という子は偉いと思った。おバカな父親(ゴメンなさいね)とは大違い。大切なのは
自分がどうしたいかではなく、どうするのがロックに最善であるかを考えることである。
里親側のことがまったく描かれないため(配慮がなさすぎ)ロックがどのような状況に
いたかは分からないが、やがて帰島できることになって、獣医師にその旨を話した時、
すでに違う名前がつけられていること、今の飼い主にたいへん懐いていること、が
告げられる。それでもこの父親は諦めず、なぜか橋の上で(汗)息子と再会をさせる。
なにこのメロドラマ…。仕方ないけど…。
もちろんあちこち廻されたロックにしても、愛する家族の元へ帰るのは望ましいが、
4年もの間、ロックを健やかに逞しく愛情を持って育ててくれた里親への感謝がない
のは、本当に言語道断。実際の避難家族の皆さんは、こんなではなかったはずだぞ。
…というわけで、文句ばかりが並んでしまった本作。
犬の映画だ、というだけで止め処なく入り込んでしまって情けない気もするが^^;
とはいえ、明るいお母さん(麻生久美子)は良かったなぁ!あれこそが前向きに生きる
お手本のようなものだ。決断力も並のものではなかった!いい肝がすわっている。
被災地での映像で、苦しい生活にもかかわらず、カメラに笑顔で答える人々がいる。
まだ大変だけど、頑張りますから。と明るく応える気丈さや、
ボランティア活動に、ありがとう、ありがとう、と深々と頭を下げるしなやかさ、
その土地で培われた美しい人間性もまた、絶対に失ってはいけない宝物なのだ。
(家族の幸せはペットの幸せに繋がる。前を向いて元気に歩いていこう!アチョー!)