「メロンとは、スプーンで食べると思っていた」軽蔑 ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
メロンとは、スプーンで食べると思っていた
「ヴァイブレーター」などの作品で知られる廣木隆一監督が、高良健吾、鈴木杏を主演に迎えて描く、野蛮な妖しさに満ちたラブストーリー。
幼い頃、マスクメロンを一人で食べ尽くしてみたいと思っていた。瑞々しい果肉、その中心で蠢く白い種を掻き出し、スプーンで一気にほじくりかえす。スイカよりも、キウイフルーツよりも、最上の贅沢と信じて疑わなかった。
私の夢は心底幼かったのだと思ったのは、本作を観賞した後であった。主人公である「カズ」と、「真知子」が初めて結ばれる印象的なシーンで唐突に出現したもの。それが、半玉のメロンであった。
男と女と、メロン。この何ともイヤラシイ描写に興奮を覚えていたら、おや、「スプーン」が、ない。カズは当たり前のように、指で果肉をほじくって真知子の口に入れる。果汁が・・指を濡らす。「おいしい?」「・・・美味しい」この間合い、妖艶な微笑み。もう、観客は目を背けられない。
この場面、下手な交接描写よりも相当に、エロティックな空気に満ち溢れている事に、観客は容易に気が付くはずである。垂れる水分、涙を流して食べる真知子、生物的な音。様々な作品を通して、男女の葛藤と愛情を描いてきた作り手の、真骨頂がここにある。
破滅へと突き進んでいく一組の男女を描く本作。この「指ほじりメロン」に限らず、舌足らずの鈴木が時に、ふわりと漏らすうめき。くぐもった声が、画面に妖艶な魅力を滲み出す高良。そして、和歌山弁の中に都落ち水商売嬢のいかがわしさを発散する緑魔子。あぐら姿にすら、男の無常観とキナ臭い薫りがぷんぷんする小林薫。個々のキャストが持つ危険な味わいが物語を強烈な色彩に塗りたくり、観客の緩んだ五感を刺激する。
廣木監督作品の常連、大森と田口も求められる空気と、危険な痛々しさを具現化して本作のもつ世界観を力強く支える。新しい世代のキャストが挑む大人の匂いと、ベテラン俳優陣への作り手の厚い信頼が、確かな日本製フィルム・ノワールの濃密な空気を作り出す。その熱くも、頼もしい完成度の高い創造世界に胸が震える。お子さまには、ちょっと薦められない・・いや、薦めたくない。
二時間強の、純愛世界。この究極のエロチシズムに溺れる価値は、ある。