「原題の皮肉。」君を想って海をゆく ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
原題の皮肉。
名画座にて。
この日はこれともう一本観たのだけど、いやはや、二本とも凄い結末。
エ!?そうなるわけ?とビックリもしたのだが、リアル性で考えれば
これも普通にあり得ることで…夢見がちな自分脳をガツンとやられた。
監督如何でラストの価値も斯様に変わる。たまにはこういうのを観たい。
この監督の作品は「灯台守の恋」が印象的でこの時も、お!そうくるか!?
と思った記憶がある^^;いい意味で期待を裏切る監督なのかもしれず…。
それにしても、どこの国でも難民、不法入国者問題は複雑なのだなぁと
今作でフランスやイギリスの実状を知った。クルド難民については詳しく
知らなかったが、港町カレーにはいつも難民が溢れているのだそうだ…。
そして今作で核となるビラルという青年。まずイラクから三ヵ月かけて
4000キロ歩いてここまで来て、トラックでの密航を試みるも失敗、次は
泳いでドーバー海峡を渡るぞ!と思うこと自体凄いのだが、それもこれも、
ロンドンに渡った恋人に、ただ逢いたいがため。この真っ直ぐな純粋さ。
家族でロンドンに移り住んだその恋人には、すでに親が決めた婚約者?
らしき人物がおり(むろん彼女は嫌々)彼女の方も彼に逢いたがっている。
この二人のやりとりを目の当たりにした水泳コーチ・シモンの心は揺らぎ、
自身の抱える離婚問題、彼らを手助けすれば罪に問われるのを承知で、
ついぞビラルの水泳コーチを引き受けることにする。メキメキと上達した
ビラルだが、なかなか海峡を渡りきることができない。そしてある日…
今作でグッとくるのは、とにかく彼女に逢いたいがため(それだけの想い)
お前バカか!?と思うくらい真っすぐなビラルの行動に対して、である。
これが「若い」っていうことなのか^^;コーチを引き受けるシモンにとって、
いま自分に最も必要なものを突きつけられた感じの唐突な彼の行動力。
それにしても惜しいのは、シモンとボランティアに励む最愛の妻、彼らが
なぜ離婚しようとしているのか、今ひとつピンとこない。どう見てもお互い
想い合っているし、そもそもシモンがコーチを引き受けたのは、彼女と
やり直したいからであるが、そこまでの彼の心の変遷が全く分からない。
切羽詰まったビラルとは対照的な(だからあの台詞が活きるのだろうけど)
中年カップルの行動には、うーむ…という感じが捨てきれなかった。
さて…冒頭にも書いた、エ!?と驚く結末。
その後のシモンの行動と合わせて、さらに考えさせられることになるが…。
(原題:WELCOME、とは何たる皮肉。それでも誰かを想うことは必要なのだ)