名前のない少年、脚のない少女のレビュー・感想・評価
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自死願望に引きずり込まれそうになる。
思春期の閉塞感。底なし沼に足をとられて前に進めないもどかしさ。何かがまとわりついて掃えないどうしようもない息苦しさ。 題名、ブラジルの新星というキャッチフレーズに惹かれて、ブラジル映画特集にて視聴。 映画の公式サイトによると、原作に魅了された監督が、原作者の生まれた町に数か月住んで、そこに住むティーンエイジャーのブログとかを読み、400人以上と連絡を取って話したんだそうだ。そうやって作り上げた映画。 何をしても、どっちを向いても出口の見えない、確かさの感じられない、もがき苦しむ思春期。 大きく羽を広げて飛び立ちたいのに、できない…。そんな思いを大人はわかってくれない。そんな苛立ちと焦りと無力感がよく現れていたように思う。 そして、そんな少年を心配する母にいたく共感してしまう。 自死。別に死にたいわけじゃないんだよ。ただ、今の自分と別れを告げたいだけ。大きく飛び立ちたいだけ。 そう、ここから連れ出してくれるのを待っている。なのに…。 仮想空間。妄想。ここでないどこか。 ”夢”。でも、実現してしまったら、それは現実になって、同じことの繰り返しになるかもしれない。 それは自死も同じ。現実になったら…。 最後の場面、主人公が自死し、魂だけが母の元に現れてきたのかと思った。 この手のテーマを描く他の映画では、田舎の素朴な、生命力あふれる情景・人間関係が主人公の命を蘇らせるのに、この映画では、田舎の、素朴な情景・人間関係が主人公をさらに空回りさせる。 ほとんど説明はない。HPの解説やレビューを観てそうかそうかと納得する。たんたんと主人公の生活が描かれる。 だから、きちんと理解したい、しっかりとした筋を追いたいと言う方には向かないかもしれない。 カタルシスを得たい方も向かないかもしれない。 「名前のない少年」どこにでもいる少年ということか。 「脚のない少女」って、つまり”幽霊”のこと? 名前のない少年には、まだこれといった少年自身を表すような”もの”はないのに、 脚のない少女=幽霊には、その少女自身を表す、生きていた痕跡が残っている点が面白かった。そして、少女は少年に影響を与えていく。妄想と現実が曖昧模糊となって…。 独特の映像のようでもあり、昔からある映像のようでもあり、不思議な映画。 確実に、観る人を選ぶ映画。 沈殿した心の奥底がかき回されるか、勝手の自分を思い出して郷愁に浸るか、心が拒否して眠気が来るか。 できれば、誰かの温もりのある場で観ることをお勧めする。もしくは、夜明けの光を感じられる時か。 <蛇足> 顔にビニールをかぶせてふざける場面が一瞬ですが出てくる。苦しむ様子もなく笑っている。 笑いあっている姿が不気味で、R+18等規制かけなくていいのかと心配になった。
ブラジルのティーンは想像以上にセンシティブ
ブラジルの若者を扱った映画というと、「シティ・オブ・ゴッド」などカゲキでワイルドな映画を思い浮かべがちだ。 だけど、実際はどうなんだろう? この映画を見る限り、ブラジルのティーンも日本のティーンと大差なさそうだ。 とりたて大きな理由もないけど行き場のない思いをして、昼夜ネットの世界に没頭している。 自由度の低いテレビなんてもう時代遅れなのだ。 ネットの中で自分に都合の良いアイデンティティーを作り出して、血を流すことなく争ってみたり、無機質な電磁波になぐさめられてみたりする。 ある意味、このトレンドは全世界共通なのだ。 いまだネット社会に対しては否定的な意見が多いけれど、誰もがその恩恵を受け、そこに居場所を確保しているじゃないか。 この映画はそれを大前提に進む。 状況を説明してくれる台詞はほんとんどなく、詩情豊かな描写の連続で物語が運ばれる。 つまり知らない言語による音楽を聞いているようなもので、集中しないと簡単に置いてけぼりを食らう。 不親切といえば不親切だが、不親切くらいがこの映画の雰囲気には合っているのかもしれない。
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