「『星守る犬』に出演したチビの演技力の凄さが分かる作品」わさお 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
『星守る犬』に出演したチビの演技力の凄さが分かる作品
映画『星守る犬』のレビューを書いていたら、無性に映画『わさお』も紹介したくなりました。同じ秋田犬が主役を務める作品だけど、方やわさおは素人に対して、『星守る犬』に出演したチビは、動物プロに所属するプロの俳優犬。2匹の演技の違いが、作品の明暗を分けています。
とにかくわさおは、全く演技をしません。いつも同じ表情で佇むだけ。そんなわさおが意味なく随所に登場します。ある日は海をバックに、ある日は森の中で、そしてある日は、お腹を空かしてテツ子の店に現れる。まるでわさおのプロモーション映像のようなシーンが目立ちます。プログでの人気を当てにして、要はわさおが映っていればいいんだと言わんばかりのショットです。
それでも泰然としたわさおの存在感は、抜群。犬好きなら多いに許せるプロモーション的映像でしょう。
わさおに輪をかけて、監督の演出にも疑問です。「RAILWAYS」でも感じたのですが、錦織良成監督作品は、信じがたいほどに盛り上がりに欠けます。感動的なエピソードは盛り込むものの、全体としては淡々とした起伏のない話になってしまうのは、起承転結の構成に、ひとひねりが足りないからでしょう。
ストーリーは、幼犬時代の飼い主アキラが、母の事故死と共に犬嫌いになり、わさおを捨てるものの再会する話と捨てられたわさおが、諸国を放浪するうちテツ子と出会い、街の人気者になっていくという二つのストーリーラインをラストで結ぶ構成になっています。つなぎ方がご都合良すぎて、雑なんですね。
気になるのは、突然わさおが街の人気者になってしまう展開。何の前触れもなく、鰺ヶ沢の町民たちの間でわさおが評判なっていて、ねぶたにもわさおの人形が突然登場したのには驚きました。だいたい農作物が荒らされる犯人だとも思われている前振りをしているのにです。
それとねぶた祭りと街の観光名所を露出したシーンがやたら長いのも気になります。タイアップが見え見えすぎて、まるで、鰺ヶ沢町の観光PR映像を見ているかのようなのです。
そして極めつけは、農作物を荒らし、山に入ったアキラに襲いかかる熊のベタさに卒倒しました。熊はなんとかぶり物だとはっきり分かるしろものだったのです。「ガマの油」でも天下の名優役所広司は恥ずかしくないのかとショックを感じたかぶり物の熊が登場しましたが、本作ではもっと低予算を感じさせる熊だったのです。
さらに最悪は、元の飼い主の危機に、わさおがアキラをかばい、熊と対決することにしたことです。もとより演技が出来ないおさおに熊と決闘するシーンなんて土台無理な話。でどうしてかというと、熊だけ見せて、音声だけで決闘しているらしいシーンを作り上げたのです、CG全盛の映画界で、映像をケチって音声だけでアクションシーンを表現するなんて考えられませんね。
救いは、わさおを見つめる薬師丸ひろ子の表情。プライベートでも犬好きなんだというのが手に取るほど分かる暖かい視線をわさおに降り注いでいました。エンドロールのテツ子とおさわがお気に入りの海岸で佇むツーショットの映像が一番感動できました。わさおと薬師丸ひろ子が、まるで本当に会話しているかのように、見つめ合っているのです。大女優に負けないわさおの存在感。ホント、ふたりの関係はラブラブでした(^^ゞ
犬好きなら、このシーンだけでも泣けてくることでしょうね。