「政府軍にあらがった半次郎たちの深く魂に刻まれる作品。」半次郎 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
政府軍にあらがった半次郎たちの深く魂に刻まれる作品。
試写会では、予告なく出演者が登場して舞台挨拶しました。
やたら黄色い声援が飛ぶなぁと思ったら、EXILEのAKIRAじゃあありませんか。なるほど。きっとマイミクさんも、AKIRAが来るのだったら、ワタシも試写会に同行したかったと悔しがられる方はいらっしゃるでしょうね。AKIRAは、時代劇に初挑戦だったのですが、その立ち回りに、鳥肌がたったと、主演で企画も担当した榎木孝明がべた褒めでした。小地蔵が感じたのはAKIRAは、過去世で武士だったのだろうと思います。本人も、人生観が大きく変るほど影響を受けた作品だったと話していました。
AKIRAの演技の秘訣は、ずっと榎木の奥さんにもらったというふんどしを締めていたことだそうなのです。ふんどしの効果が大きかったのかも知れません。榎木が時代劇を演じる時、いつもふんどしを着用すると意識が高揚し、役に集中できると、その効果を解説してくれました。AKIRAはふんどしなのよぉ~という目線で映画を見るのも、また世の女性にとって一興ではありませんか(^_^;)
AKIRAt@ふんどしなら、対抗して白石美帆はノーパンだったことを告白。ついついそれを想像した榎木が赤面して、面白かったです。
平原綾香の生歌も聞けて、充実した試写会でありました。
作品は、鹿児島県出身の、榎木孝明が俳優と共に剣術に没頭し、何としても半次郎に歴史の光を当てたいという13年にわたる情熱がひしひしと伝わってきました。
半次郎を演じる榎木の表情はいつになく真剣で、終始、激動の歴史にもまれる厳しい顔つきを緩めようしない熱演ぶり。半次郎にかける意気込みを感じさせる演技でした。
主役よりも、感動したのはAKIRAが演じる永山弥一郎の大立ち回り。手負いの永山は、それでも隊長として隊員の危機に自ら殉じていきます。独りで何十人もの敵を相手に、渾身の刀を振り下ろす様は、見ていて目頭が熱くなりました。とても時代劇が初めてとは思えない、素晴らしい殺陣でした。
殺陣は、自顕流を正確に再現されていて、一度見たら忘れられない特徴のある剣法なのです。八相の構えより剣を天に向かって突き上げ、腰を低く落とし、薩摩藩主島津斉興が、「まるで気が狂った輩の剣術だ」と言ったくらい奇声を発する構え。薩摩示現流よりもさらに実戦を重視した剣術であり、初太刀から勝負の全てを掛けて斬りつける『先手必勝』とも言うべき鋭い斬撃が特徴です。本作では、敵陣に特攻していくとき、自顕流の構えが、一層悲壮感を漂わせていました。
また訓練においても立木に向かって気合と共に左右激しく斬撃する『立木打ち』も印象に残りました。
そして当初の1/10の予算が削られてしまった戦闘シーンは、砲弾や銃弾が飛び交う戦闘シーンの迫力、リアルティーはなかなか見応えありました。
ただ本作で惜しいのは、テーマの人生には命を賭してまでも、捨ててはならないものがあると言うことの表現が弱かったと思います。
メインの西南戦争へ至る、何故旧士族が決起を促し、西郷隆盛が立つまでに至ったか。その止むに止まれぬ士族たちの憤りが、『ラストサムライ』と比べてもあまり描き込まれていなく、いきなり戦闘になってしまうのです。
やはり伝記物というのは、どうしても2時間でまとめるのは難しくて、どうしても駆け足になってしまい、伝えたい内容が希薄になりがちです。
そのため本作でも、前半の西郷隆盛との出会いから明治維新までの半次郎の活躍はかなり展開を割愛して、後半の西南戦争に繋げようとします。そのために半次郎を慕う、さとの交情が深く描かれなかったのは、致し方ないところでしょう。しかしさとの恋は、半次郎の人間味を語る上で欠かせないところ。もう少し描いて欲しかったです。
加えて、メインの西南戦争でも、熊本城決戦や田原坂の攻防など重要シーンが省略されています。全て織り込むのは土台無理な話ですが、このあと見た『桜田門外ノ変』と比べても、時間軸とストーリー展開をどこに絞り込んで描くかは検討すべきだったでしょう。13年に及ぶ本作のプロデュースの情熱が、なかなか安易に絞り込むことを許すことができなかったと想像できます。
それでも身命を賭して、政府軍にあらがった半次郎たちの深く魂に刻まれる作品です。惜しくも★★★★★にはしませんでしたが、ぜひお勧めします。
追伸
西郷隆盛役は、一般公募で選ばれた会社経営者が出演。初めてとは思えないなりきりモードで好演しています、やはり西郷ドンに心酔して数十年という年季はただ者ではないようでした。