「愛は惜しみなく魅了する」ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
愛は惜しみなく魅了する
石井隆監督2010年の作品。17年ぶりとなる続編。
東京近郊の街。雑居ビルでバーを営む母・あゆみ、長女・桃、末娘・れん。
この母娘たちには夢がある。ビルを建て、そこで贅沢に暮らす事。
その為には勿論大金が必要。元手は日々の仕事の稼ぎではなかった…。
身寄りの無い老人を色仕掛けでたぶらかし、保険金を掛け、時期を見て殺す。死体は自殺に見せかけて富士の樹海に。
彼女たちは、死体を処分する事をワインになぞらえて“熟す”、樹海の奥地にある洞窟をキリスト教広場の意味の“ドゥオーモ”と呼んでいた。
その夜、思わぬアクシデントで新たな犠牲者が。バラバラに解体して樹海に棄てる際、れんの不注意でロレックスの時計も捨ててしまう。
高額で勿体ない上に、もし見つかりでもしたらそこから足が付くかもしれない…。
樹海の中からロレックスを探すなんて到底無理。そこで、
「仕事を頼みたいんですが…」
男にとってその出会いは、再び宿命の巡り合わせか、異常な愛のカタチか。
何でも代行屋、紅次郎。
石井監督が描く愛と哀しみのハードボイルド、再び。
男にとっても女にとっても悲劇でしかない。
例え結末が分かっているとしても。また魅せられる。
バブル後の東京の夜も魅惑的だが、発展した今の街も魅惑的。
きらびやかでありつつ、その陰。
それはまさしく、この街で蠢く女と男、愛憎、欲とエゴ。
母娘たちはその体現者だ。
全ては金、自分たちの飽くなき夢の為に。
肉体も何もかもさらけ出す。
17年前からキャリアを重ね、名実と共に名優となった竹中直人。紅次郎の哀愁に深みが増した。
母あゆみ役の大竹しのぶは言うまでもない。
母娘には問題の夫/父がいる。宍戸錠が怪演。
やがて次郎も再び巻き込まれる“事件”に発展。不審に感じた女刑事ちひろが追う。東風万智子が熱演。
しかし誰よりも圧倒的存在感を放ち、監督にとっても次郎にとっても我々にとってもの“ミューズ”。
佐藤寛子。
まだ少女の面影残すれん。
が、時々ドキリとするほど艶かしい。次郎の事務所を初めて訪れた時のワンピース姿の艶っぽさときたら!
少女と大人の女性の狭間。
ギャップと、可憐さと、儚げさ…。
彼女には、ある壮絶な哀しみが…。
語る事すら胸糞悪くなる。
まだ幼い時から、実の父から…。
そんな実父を憎み、殺したい。父は金も持っており、一石二鳥。
れんからその話を聞き、気が狂いそうになる次郎。
いつしかれんに惹かれていた。
あの時と同じだ。嵌められているかもしれない、騙されているかもしれない…。
でも、何処かで彼女の事を信じて…。
元グラビアアイドルだという佐藤寛子。
その美貌やスタイルの良さをたっぷりと拝めるのは勿論、ヌード、激しい濡れ場…文字通りの体当たりは圧巻の一言!
若く瑞々しいれんの肉体と、次郎の初老の身体の対比が印象的。
個性の強い母と姉に押され、控え目だった末娘。ところが、クライマックスのれんの豹変…いや、これが本性だったのか。戦慄…。
彼女もまた美しきファム・ファタールだったのか、哀しきミューズだったのか。
前作はあまりにも哀しいラスト。
が、今回は次郎に救いが。
別の“ミューズ”とのささかな食事が優しく、温かい。