「甘えは、許さない」瞬 またたき ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)
甘えは、許さない
「がんばっていきまっしょい」で知られる磯村一路監督が、北川景子、岡田将生を主演に迎えて描く、人間ドラマ。
一冊の重厚な哲学書を読破したときの、張り詰めた空気を一気に吐き出す開放感を思い出す。原作そのものが持っている性格が影響しているのだろうが、それ以上に本作の監督、磯村一路の物語に対する姿勢が強烈に発揮されている部分が大きい。
「がんばっていきまっしょい」や「解夏」など、これまで磯村が手掛けてきた作品に対して、どうしても抵抗を感じてしまう。それは、常に登場人物に対して突き放した態度を貫き、硬い、冷たい感情を剥き出しにした視線を終始、意識してしまうところにある。
中途半端に感情を誤魔化さず、非情なまでに説明口調、感情を抑えつけた台詞を畳みかけ、観客が一息つけるような遊びを一切許さない。徹底的に堅苦しい要素を並べ立て、逃げる甘えを許さない。だから、息が出来なくなる。目を背けたくなる。
ただ、本作の場合はその非情な視線が効果的に発揮されている。空白の10分間、恋人がその命を落とすまでに自らが失った記憶は、何か。その一点に辿りつくまでに、無用なまでに生々しい描写や自問自答を重ね、真実へ突き進む。その硬質な世界は、取り戻すことになる記憶の意味、想い、悲しさを観客に突きつける。痛い、苦しい、でも、その冷たさが、この物語には必要だった。
終盤、切断された恋人の指を拾う主人公の描写がある。そんなに繰り返さなくても良いのに、何度も飛び散った指を見つめるカメラ。見なくても話は分かる。でも、甘えを許さない視線はそこをいやらしく描き、突き詰め、観客に真実の温度を伝える。目を背けたい・・けれど、知らなくてはいけない。
中途半端な嘘に、感動も、ましてや心に残るものなんて無いから。
単純に恋愛物語とは語れない痛々しさをもった本作。それでも、じっくりとこの物語に寄り添い、人間の難しさ、弱さ、そして愛しさを心から味わって欲しい。