「遅れてやってきた秀作ポリティカルアクション」グリーン・ゾーン 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
遅れてやってきた秀作ポリティカルアクション
イラクに大量破壊兵器は存在しない……戦争の大義名分を揺るがすその事実を隠蔽する為にとある陰謀が進行していたというストーリーは、グリーングラス監督の手腕によって実にサスペンスフルに作られてはいるものの、やはり“何を今更”感が漂っているように思えてならない。
あと2、3年早く……例えばブッシュ前大統領がイラク人記者から靴をブン投げられた頃にでも公開されていれば良かったかもしれないが(もちろん無茶な相談だけどね)、イラク戦争を題材にした映画が量産された今となっては新鮮味は薄い。
だが逆に言えば、戦争参加国の人々(監督は英国人、主演は米国人)の「あの戦争を支持してしまった」という後悔の念が今でも深いのだとも言えるだろう。
偽情報を鵜呑みにしていたと知った記者の苦渋の表情や、協力者として登場するイラク人の最後の台詞に、作り手の贖罪の念が込められているように思える。
ポリティカル(政治)サスペンスとして一定の出来に仕上がっている本作だが、監督はこの映画をあくまでエンターテイメントとして観てほしいとのことなので、そこについても書きたい。
手持ちカメラで撮影されたアクションシーンの緊張感は見事の一言だ。冒頭の避難シーンや敵の会合に乗り込むシーン、そしてクライマックスの追跡劇と高いテンションは維持され通し。『最前線に叩き込まれる』という宣伝文句に恥じない迫力だ。
カメラがブレすぎて酔う人もいるかもなので注意は必要だが、『ハートロッカー』に軍事アクションの迫力を期待して肩透かしを喰らった方などにはオススメできると思う。
しかし、『ボーン』シリーズのような流麗なまでに洗練されたアクションシーンを期待してはいけない。主人公はあくまで軍人であり、暗殺者ではない。当然アッと驚く殺人スキルを見せる訳は無いのだ。
また、主人公がボーンほど自律行動型の人間では無いことも、物語のスピード感をやや削いでしまっているかもしれない。
どちらも物語上で必要な制約であり、『ボーン』シリーズよりエンタメ度が下がってしまうのは必然だろう。
どうしても『ボーン』シリーズとの比較になってしまって申し訳ないが、そのシリーズを観ている人にも観てない人にも勧められる、水準以上のアクション映画に仕上がっていることは間違いない。ポリティカルアクションが好きな方なら是非。
<2010/5/15鑑賞>