「緻密な伏線と個性的なキャラで、3本分の楽しみが詰まっています。」ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
緻密な伏線と個性的なキャラで、3本分の楽しみが詰まっています。
伊達に全世界1500万部を売り上げ、社会現象にまでなった原作のストーリーテーリングの巧みさに、サスペンスを満喫しました。
少なくとも、一本のドラマに3つのストーリーが進行しています。1本で3本分楽しめるといって過言ではないでしょう。
まず登場するのは、企業犯罪を追及するジャーナリスト、ミカエル。彼は取材対象の企業にはめられて、3ヶ月拘留の有罪判決を受けてしまいます。
一見本筋に関係ないように見えるけれども、ミカエルという記者を説明していく上で欠かせない伏線でした。
そしてラストでは、後述する相棒の活躍により、予期せぬ展開が待ち受けます。
そんなミカエルの身辺調査をしていたのが天才ハッカーのリスベット。誰も知らない情報を魔法のように引き出す彼女は、意外にも男を拒絶しているようで、ツンデレな女でした。
出で立ちから、鼻ピアスに、背中にはドラゴンタゥー、革ジャンに濃いアイシャドゥーを付け、異様な個性を感じさせます。全身から男を拒絶するオーラを放つリスベットにはそれなりの過去があったのです。
ストーリーと共に小出しに明かされる彼女の過去は、どうも近親者に犯されたような過去があったらしいのです。何度もフラッシュバックされる中年の男を車ごと放火する少女の頃のリスベット。その一見で彼女は長い間、精神病棟に押し込められていました。
晴れて仮出所したとき、後見人からも性的強要を受けます。これに反撃する彼女の対応がエロえぐい(^^ゞ
事件の被害者たちを含めて、本作の第二のストーリーは、女性虐待を鋭く告発する内容です。リスベットの心の闇に触れるとき、孤独で誰かに抱かれたい気持ちと男性への嫌悪感が痛いほど伝わってくるのですね。
中盤から、ミカエルが抱える事件解明に協力するようになったリスベットは、突如ミカエルにのしかかるように求めます。けれどもミカエルが求めると手痛いしっぺ返しを喰らわすのです。彼女の本質を心得ていたミカエルの優しさが印象的でした。
さて第3のストーリーは、40年前に忽然と失踪した資産家の妹の失踪事件調査。入監前のミカエルに、ある資産家が所在を調べて欲しいと調査依頼が舞い込むのです。
それは交通遮断されたストックホルムの孤島で起こった失踪事件でした。いわば密室状態のなかで起こった出来事だけに、誘拐殺人ではないかとミカエルは推理するのでした。しかも当時は資産家のパーティーが開催されていて、失踪した妹を誘拐しえるのはパーティーに参加した親類縁者しか考えられない状況だったのです。
リスベットのハッキング情報を参考にしつつも、ミカエルはほんの僅かな当時の写真や資料から、巧みに犯人象を割り出していきます。その推理は、緻密な伏線の張り方で、引き込まれました。
やがて事件は、『ラブリー・ボーン』のように連続少女殺人事件へ発展していきます。被害者の殺害シーンは、少々凄惨で、えぐかったです。
そしてストーリーは圧巻のラストのドンデン返しが続く山場を迎えます。思いも寄らぬ犯人にミカエルは油断してしまい、絶体絶命のピンチを迎えるところがドキドキしました。
そして犯人を追い詰めるリスベット。女の全体の敵のような犯人に取った復讐の仕方が傑作でした。まさに「伏線の妙」というべきものです。最後の彼女の変身ぶりにも仰天させられました。素はかなりの美人です。
2時間半があっという間に終わるサスペンスの大傑作。タランティーノ監督が、ブラビでリメイクしたいと申し入れたのも納得します。
3部作の第1作目ですから、後続作品を楽しむためにも、本作をお勧めしておきます。エンディングロールに、第二作の予告が入っていました。こちらでは、もっと詳しくリスベットの過去が明かされるようです。