「こんなお洒落な終わり方をする映画は初めて観た」(500)日のサマー といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
こんなお洒落な終わり方をする映画は初めて観た
私が今年観た80本の映画の中で『花束みたいな恋をした』という邦画が今のところ暫定一位の作品です。あまりの面白さに他の映画好きの方の意見が知りたくて、一時期『花束みたいな恋をした』のレビュー動画を観漁っていた時期もあります。そんなレビュー動画の中で、多くの映画レビュアーさんが類似の作品として名前を挙げていたのが『ブルーバレンタイン』と、今回鑑賞した『(500)日のサマー』でした。
好きな映画の類似作品と言うことで私の好みであることはほぼ間違いないですし、かなり評価の高い作品でしたので、ハードルはめちゃくちゃ上がっている状態での鑑賞になります。
結論ですが、めっちゃ良かった!!
主人公トムがヒロインのサマーと出会ってからの500日を描く作品ですが、時系列を行ったり来たりする構成が非常に効果的に働いていましたし、ストーリーも恋愛の「あるある」を描いた内容になっていて観ながら「うわぁ」と思わず声を挙げてしまう場面も多々ありました。恋人の片方が病気で死んじゃったり恋敵が出てきて三角関係になったりするような分かりやすいドラマ性は無いのに、こんなにも日常がドラマチックに表現できることに驚きます。日常のさりげない風景を切り取ったような演出と脚本がすごく良かった。そして特筆すべきはあのラストシーン。ラストシーンがこんなに綺麗な作品を他に知りません。本当に素晴らしかったです。
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建築に興味がありつつも、グリーティングカード会社でカードのコピーライターとして働いていたトム(ジョセフ・ゴードン=レビット)は、ある日社長秘書として入社してきたサマー(ズーイー・デシャネル)に一目ぼれをする。トムはサマーに熱烈なアプローチをしてデートやキスにこぎつけるのだが、サマーにとってトムはただの「友達」でしかなかった。
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本作の特徴は何と言っても時系列が行き来することでしょうか。時系列操作によってストーリーを面白くする作品と言えば私がオールタイムベストに挙げるクリストファー・ノーラン監督の『メメント』を真っ先に思い浮かべます。時系列操作系の作品はどうしても複雑なストーリーになってしまいがちですが、本作は時系列が変わる度に「今は何日目」と分かるようなカットインが挟み込まれる演出があるので、時系列操作が登場する作品の中ではかなり観やすい内容になっていたように感じます。
時系列を行き来させることで、「出会ったばかりの頃に大笑いしていたギャグが倦怠期を迎えた時にやってもクスリとも笑えない」というのが一目で分かる描写がされています。時系列操作が効果的に使われていて良かったです。左右で画面分割する演出が何度かありましたが、あれも面白かったですね。昔からある映像手法ではありますが、同じ「左右画面分割」でも色々パターンがあるんだなと感心させられました。
ストーリーも良かった。
本作は恋愛の「あるある」を描いた作品になっていました。個人的な話になりますが、私の知人にサマーっぽい人がいましたので、劇中の多くの日常的な描写で「わかるわー」って思わされました。劇中のナレーションでも語られてましたが、多分ああいう「特筆すべき魅力は無いのに男を魅了してしまう女性」って普通に生活していれば誰でも一人くらい会ったことあると思います。
そんなサマーに(他の男たちと同様に)魅了されてしまった運命の相手を夢見る青年のトムの視点から物語が進みますが、時系列を行ったり来たりするため途中で「これはどういうことだろう」と疑問が浮かぶシーンも何か所かあります。映画が進むにつれてそういう疑問が解決していくのも伏線回収モノの映画のようで面白いですね。序盤のシーンが後半で全く意味合いが変わってしまうようなどんでん返しもあって、2周目でも楽しめる構成になっていると感じました。
「男女の違い」とか「恋愛観」が描かれる場面も多かったので、観た人の価値観によって意見が変わる作品かもしれませんね。ぜひこの作品を観たことある人と語り合ってみたい作品でした。
あと、色々なレビュアーさんのレビューを読んで知ったのですが、作中に登場する曲や映画の一つ一つにきちんと意味があって、登場人物の心情や考え方の違いを如実に表しているらしいです。私は洋楽には明るくないため、その繊細な演出に気付くことができなかったのが悔やまれます。『花束みたいな恋をした』でも、登場する楽曲や書籍やファッションなどのコンテンツがそれぞれこだわり抜かれたチョイスがされていて、観客がそれらのコンテンツを知っているからこそ得られる「〇〇が好きということはこういうキャラクターなんだな」というキャラクター設定の補強がありました。本作にも、そういう細かなキャラクター描写がふんだんに盛り込まれていたので、鑑賞後に色々な人のレビューを観ると新たな発見があって非常に面白いです。
サマーが結婚を決めたきっかけが「たまたま出会って読んでる本がお互い好きな本だったから運命を感じた」ということだったんですけど、物語冒頭でトムとサマーが仲良くなったきっかけが「たまたまエレベーターで一緒になって聴いている曲がお互い好きな曲だったから」だったんですよね。トムはそれで「サマーこそ運命の相手だ」と確信していたのにも関わらず、サマーはそうは考えてなかったんですよね。その対比が非常に辛くて苦しくて面白い。本当に最高。
久々にここまで楽しめる作品に出会えました。万人におススメできる映画です!!