「どことなく懐かしい風景には、きっと見ているだけで多いに癒されることでしょう。」里山 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
どことなく懐かしい風景には、きっと見ているだけで多いに癒されることでしょう。
BSで放送されていたのを、ながら見で見ていまして、自然豊かな山間にカメラを持ち込み、自然と人間が共生する姿が美しい映像で綴られており、思わず見入ってしまいました。
2年間という膨大な時間で追い続けた里山の風景は、普段は気付かない自然の息づかいが聞こえてきそうなシーンが満載だったのです。
面白いのは、ドキュメンタリーなのに、ちゃんと主役が存在して、ストーリーが組まれていることです。その主役とは、ブナの木の古木の“やまおやじ”。その風格は、里山の主に相応しい貫禄ぶりを見せていました。
開始早々、“やまおやじ”が暮らすブナの森が伐採されるというショッキングな映像が映されます。しかし、これは里山の破壊でなく、森の再生に必要な伐採だったのです。ブナの木は、無秩序に伸ばし放題では、やがて自らの枝で光りを遮り、枯れてしまうそうなのです。そこで人間が刈り取ることで、生き延びるために必要な陽の光を、“やまおやじ”たちは手にすることができるようになるのでした。
ブナの木の生命力の逞しさには、驚かせられます。根元から切り倒しても、根さえ残っていれば、そこから新芽が吹き出し、やがては大きな枝に成長していきます。む
“やまおやじ”の語りには、そんな人と森がずっと共生してきた、深いつながりを感じさせてくれました。
ブナの森の再生は、人間にも様々な恩恵をもたらしていました。本作ではその中から、、養蜂と椎茸の原木栽培に従事する人の森での仕事ぶりも触れています。蜂が仕事をするのにも、ブナの森の豊かな自然があってこその恵みです。また、椎茸の原木栽培では、ブナの木を伐採したものを原木として使っています。原木栽培がブナの森の再生につながっている相関関係を、克明に描き出すことで、人と里山の共生する姿が印象強くクローズアップされました。
最後には、“やまおやじ”も切られてしまう運命にあります。しかし、里山でのいのちは永遠です。きっとこの“やまおやじ”もしぶとく根株から新芽を出して、やがては元の姿を取り戻していくことでしょう。
メインストリートの合間に映し出される森の生き物や昆虫たちの描写もたっぷりで、つかの間の里山探索が楽しめます。どことなく懐かしい風景には、きっと見ているだけで多いに癒されることでしょう。