「“ブラッカイマーらしさ”が存分に味わえるSUPER西部劇」ローン・レンジャー 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
“ブラッカイマーらしさ”が存分に味わえるSUPER西部劇
もっと奇天烈なトレージャーハンティングものかと思いきや、生粋の西部劇でした。それもそのはずで、原作はほとんど古典的な米国の人気コミックである。テレビ初期にTV映画シリーズとして人気を博し、1956年に劇場用映画にもなった古典的西部劇の代表作。
但し、現代のハリウッドムービーのしかも『パイレーツ』チームが手掛ければ、単なる西部劇に終わるわけがありません。銃撃戦や暴走する列車上での大活劇といったこのジャンルの定番ながら、そのスケール感ときたら度肝を抜くようなシーンのオンパレードでした。一体何両の蒸気機関車が宙を舞ってクラッシュしたのか。その走るSLや西部の町並みなリアルさを追及した結果、全てCGではなく実写セットいうから驚きです。9世紀の米国の機関車と8キロの線路をわざわざ作り、列車同士のチェイスシーンを撮影したというから恐れ入ります。“ブラッカイマーらしさ”が存分に味わえる作品でしょう。
あまりに多くの要素を入れすぎて、中盤は中だるみ気味。けれども注目はラスト11分!待ってましたの「ウィリアム・テル序曲」のファンファーレとともに、列車2本をつかった大活劇がはじまると、2時間30分の長さなんてコロリと忘れ、醍醐味に浸ったのです。ああ、大満足のアクションでした(^。^)
それにしてもデップの懐の深さはなんと底なしなんでしょう。デップーほどの看板俳優なら、自らがヒーロー役になっても様になっていたはずです。それをハマーに譲って、自らはトントという異形の悪霊ハンターに収まり、喜々として道化役に甘んじているのですから。但し、曽祖母が先住民だったといういうから、本人が望んで自らの家計のルーツを演じているのでしょう。そこには、白人マイノリティーへの皮肉というペーソスも感じられます。『パイレーツ』同様のコミカルな動きで、主役を喰ってしまうデップは、脇に廻っても、そのトリックスター的な独特の個性を遺憾なく発揮され、観客を鷲づかみにしてしまう千両役者です。
けれども、ハマーと相棒の白馬シルバー(実名なんだそうだ)もデップに負けていません。ここぞというタイムリーな場面に登場するシルバーに跨ったハマーの「ハイヨー! シルバー」と往年の決めポーズをとるシーンの何と痛快で、かっこいいんでしょう。
やっぱりローン・レンジャーが主役なのかと思いきや、デップはちゃっかりやっぱり自分が主役であるという自己主張を暗に本作に持ち込んでいたのです。
何しろ、ストーリーの幕あけからして、気がつけばデップの「ローン・レンジャー物語」になっているのですね。
それは、1933年のサンフランシスコでのこと。ワイルド・ウエストをしのぶ展覧会が開催されて、会場に、ローン・レンジャーと同じマスク、白いテンガロン・ハット、玩具の拳銃、玩具の拳銃(「百連発」の紙火薬式!)といういでたちの男の子がはいっていくのです。この年に、ラジオの連続放送劇「ローン・レンジャー」がはじまっていたそうです。
男の子がバッファローなどの剥製の展示物を見学していると、展示物の一つであるしわだらけのインディアンの人形が、突如話しかけて来るのです。男の子にむかって、「小さな巨人」(70年)のダスティン・ホフマンみたいに、ローン・レンジャーの思い出を語り出したインディアンが、誰あろうデップ演じるトントでした。
一通り語り終えたトントは、エンドロールで博物館を抜けだし、故郷のテキサスへトボトボ帰っていくです。そんなわけで、巧妙な手口でがっちり主役の座をデップは押さえていたのでした。
それから先のお話し。時代は1869年にさかのぼります。舞台はテキサス。ここで、やがてローン・レンジャーとなる若き検事ジョン・リードとコマンチ族のトントの奇妙な出会いがおこります。
トントは、無法者のキャヴェンディッシュに報復しようと、護送中の列車に同乗していたのです。ところがジョンのせいで、失敗に終わります。テキサス・レンジャーに任命されたジョンは、脱出したキャヴェンディッシュを追いますが、襲撃され、絶命の危機に。トントの聖なる力で息を吹き返したジョンは、素顔を隠すためのマスクをつけて、ローン・レンジャーとして生まれ変わるというもの。
最初の仮面のヒーロー誕生の経緯は、オリジナルの設定を大事に組みこんでいます。そこには本作のモチベーションとなっているオリジナルへの愛着と敬意が感じられます。、
これ以降、ジョンは黒いアイ・マスクをして正義の味方ローン・レンジャーとなり、頭にカラスの飾りを載せた先住民トントがその従者となって、鉄道建設にまつわる謀略の黒幕と対峙することになるのです。
鉄道建設、銀の採掘、弟ジョンの兄嫁にかけるひそかな愛などなど、善悪入り乱れてのお話は波乱いっぱいで楽しめます。その分人間ドラマとしての要素は、弱いけれど寂れていた西部劇をこれだけ楽しく、豪華に復活させた情熱は多いに評価したいと思います。 ぜひ続編を!