「【薄い壁の向こうから聞こえてくる、隣の部屋の基調音に癒される男女の不思議な繋がりを描いた作品。ほんわかと温かい気持ちになる佳品である。】」おと・な・り NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【薄い壁の向こうから聞こえてくる、隣の部屋の基調音に癒される男女の不思議な繋がりを描いた作品。ほんわかと温かい気持ちになる佳品である。】
■風景写真を撮りたいという夢を抱きながらも、友人で人気モデル・シンゴ(池内博之)の撮影に忙しいカメラマン・聡(岡田准一)。
一方、フラワーデザイナーを目指して花屋のバイトをしながら、留学を控えたナナオ(麻生久美子)。
2人はアパートの隣同士ながら、1度も顔を合わせたことがなかったが、いつも相手の部屋から聞こえてくる”風をあつめて”などの鼻歌や聡の部屋に突然やってきたシンゴの恋人アカネ(谷村美月)のドタバタした音を主にした基調音に癒されていた。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・今作のW主演の岡田准一さん演じる聡と、麻生久美子さん演じるナナオは夫々、夢を持って生きている。
・二人は古びたアパートの隣同士だが、顔を合わせた事は無い。だが相手の部屋から聞こえてくる生活音を煩わしく思うことなく、逆にそれを楽しんでいる風情である。
これだけで、二人が心の温かい人物であろうことが分かる。
又、麻生さんが良く鼻歌でハミングしているのが、はっぴいえんどの名曲”風を集めて”と言う所も、趣深い。
・二人の穏やかな生活には、波風が立つ事もある。聡の友人で売れっ子モデルのシンゴの恋人アカネが、シンゴが居なくなったと言って探しに来るシーンや、ナナオは近所のコンビニ店員の男(岡田義徳)が花屋にやって来て花束を作って貰ってそれをナナオに上げたり・・。
ー だが、この男は自分の小説に”リアリティ”を出すためにナナオに近づいた事が分かったり、聡もアカネについ本音を言ってしまい、泣かせてしまったり・・。
聡は、傷ついたナナオが泣きながら”風を集めて”を歌っている事に心配し、壁越しに”風を集めて”を歌ってあげるのである。-
■白眉は、聡とナナオが中学の恩師の謝恩会に出席する前後のシーンである。謝恩会の前に聡はナナオが隣室に住んでいる女性とは知らずに、少しドギマギしながらナナオに電話を掛けるシーン。二人が、中学時代にお互いを想っていた事が何となく分かるシーンである。
謝恩会の会場でも、聡はナナオの写真をコッソリと撮っている。
ナナオは見事に、フラワーデザイナーの資格を取りフランス留学が決まり、行きつけの喫茶店のお気に入りの写真をマスターから貰うのである。部屋に帰って、その写真の裏のサインを見ると、そこには聡のサインが記されている・・。
<今作は、顔も知らない男女が聴こえてくるお互いの生活音である基調音に癒されつつ、夢を追う姿と、二人が中学時代から想いを持っていた事が仄かに描かれる品性高き恋物語である。ほんわかと温かい気持ちになる佳品であると思う。>