「オリジナルの良さに助けられただけ」BALLAD 名もなき恋のうた かみぃさんの映画レビュー(感想・評価)
オリジナルの良さに助けられただけ
自ブログより抜粋で。
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原案である『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』は、リアルタイムではないですが、原恵一監督の『河童のクゥと夏休み』(2007 年)を観て痛く感動した折に、原監督の代表作ということで、(『戦国大合戦』と双璧を成す傑作『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001年)も一緒に)DVDを借りて観ています。もちろん、こちらにも負けず劣らず感動させられました。
今回の実写化にあたっては、幼稚園児であるしんちゃんを小学生に変えたり、現代的な小道具として携帯電話を絡めたりというアレンジはあれど、かなり忠実にオリジナルをなぞった展開になっていたように思う。
目につく変更点に無理は感じられず、人気アイドル、草なぎ剛&新垣結衣コンビの演技もなかなか立派なもので、予想以上のがんばりには素直に拍手を贈ろう。
そういう意味では、この実写化は成功、と言いたいところ。
けど残念ながら、作品的にはいまいちなのよ。
もちろん、筆者が『戦国大合戦』をすでに観ているがゆえ、この悲恋の結末をあらかじめ知っていたからというのもあるとは思うんだけど、けどそれだけじゃない。
それすなわち、山崎・原、両監督の力量の差。
一番の敗因は、“『クレヨンしんちゃん』であることを捨てた”実写化なのに、元を無節操になぞりすぎ。
真一のタイムスリップは意図せずしてのものだからいいのだが、彼を追っての両親(夏川結衣、筒井道隆)の短絡的な行動は、現実的な=実写で見せる大人の思慮として無理を感じた。
『戦国大合戦』は、“クレしん”に対するイメージができあがっているシリーズの中での一本だから、しんちゃん一家の突飛な行動も愉しく観られたが、単品の実写映画であるこの『BALLAD』では行動に納得いくようキャラクター紹介にもっと時間を割くべきじゃなかったのか。
アニメ版をふまえ、そうしなきゃ次に展開しないのはわかるが、それを理由にしちゃったらご都合主義でしょ。
そもそもアニメ版でもこの部分はもう少し時間を掛けていた。些細なことと思うかも知れないが、目の前のパソコンでネット検索するのと、図書館まで出かけて調べるのとでは、その行動力の表現に差があるのだ。
また一方で、『戦国大合戦』にはしんちゃんがお尻を出したりするなどクレしんお決まりのギャグシーンがあるが、実写映画『BALLAD』では当然のようにそういう下品なシーンはカットされている。
その判断自体に異論はない。ただこれによって、作品のメリハリも失ったように感じる。
小学生の真一にそういうことをしろとは言わないが、ならば代わりに実写であることを活かしたメリハリのつけ方があったはず。
若い監督にありがちな、カメラは一生懸命動いているんだが、人物は突っ立っているだけ、座っているだけの、雰囲気でごまかす似非躍動感カットも気になった。
クライマックスの合戦シーンについても不満が残る。
『戦国大合戦』といえば子供向けアニメらしからぬ綿密な時代考証に則ったリアルな合戦シーンも話題になったのだが、『BALLAD』でもその方向性を踏襲し、槍での叩き合いなどに、嘘でも格好良く見せようとするチャンバラ映画とは一線を画すリアルな合戦を見ることができる。
しかし、そういう“正確”という意味でのリアルさと、“真に迫る”というリアルさはまったく別の問題。
きっとやっていることは時代考証的に正しい戦闘シーンなんだろう。しかしセリフで言っているような「本物の戦争(=殺し合い)」にとうてい見えないようでは本末転倒ではないのか。誤解を招かぬよう念を押すが、それは血を見せるか否かというようなことを問うているのではない。
ご自慢のVFXに頼ったヒキの絵にはなるほど力が入っているのに、ヨリになると途端に迫力がなくなって、痛みを感じなければ、死と紙一重という緊張感も皆無。まるで原っぱでの草野球でも観ているかのようなのどかさが漂う。
これとて監督の演出力不足と言わざるを得まい。