「もう少し工夫がほしかったバンパイアもの」ダレン・シャン こもねこさんの映画レビュー(感想・評価)
もう少し工夫がほしかったバンパイアもの
これから観ようと思っている方に、まず最初に言っておきたいのは、蜘蛛嫌いなら観ないほうがいい、ということだ。主人公が蜘蛛好き、という設定や物語の導入部分でドクドクシイ色をした蜘蛛が活躍するのだが、私は嫌いというより苦手だったこともあって、最初から背中がムズムズして仕方がなかった。実物ではなくCGでの創作とはいえ、蜘蛛がスクリーンいっぱいにリアルに動く姿は、苦手や嫌いな人にはちょっとキツイと思う。
ただ、その導入部を過ぎると、登場人物たちの気味悪さもわりと受け入れられて、それなりに観られる作品だ。
特に、ちょっと個人的にうけたからかもしれないが、シルク・ド・フリークスなるサーカス軍団には笑わせてもらった。あのシルク・ドゥ・ソレイユの裏、陰を受け持つという意味合いなのだうが、あのトッド・プラウニングの珍品「フリークス」を思わせるキャラクターが次々と登場するシーンは、懐かしさでスクリーンに入り込んでしまいたくなるくらいだった。しかし、実はこの作品の物語は、そのフリークスたちとはあまり関係ない、バンパイア(吸血鬼)たちを主に描いている。
この作品のあらすじを大まかに言うと、バンパイアとバンパイア一族の中でも悪集団バンパニーズとの対決の物語だ。ストーリーテリングの最中、しきりに「凄惨な争い」などの思わせぶりな言葉が出てきて、映画の後半に壮烈なシーンが展開されるのかと期待していたのだが、結局、少人数のカンフーまがいの殴り合いばかりしかなかったのは、肩透かしをくらったな気分になった。しかも、この作品の場合、バンパニーズとは本来どういう連中なのか、というのをはっきりさせておくべきだったのに、派手な対決がなかったために、お茶を濁す程度の紹介になってしまったのもいただけない。もっとバンパニーズに焦点をあてるような演出の工夫はできなかったのか。
さらに工夫と言えば、主人公とフリークスたちの関係の部分だ。主人公のダレン・シャンはハーフバンパイア(この意味も定義もよくわからない)になったがために、シルク・ド・フリークスの一座と生活をともにするのだが、もともとは見下していたであるう者たちを理解する、仲間として自分も受け入れる、という部分は、主人公の成長過程として重要なはずなのに、いとも簡単な演出と脚本でやり過ごしてしまったのは、とてももったいないと感じた。この作品、全体にいまひとつ盛り上がりに欠ける印象をもってしまったのは、そうした物語のキモを演出や脚本で工夫していないからに他ならない。
若い役者たちは未熟な演技が気になるが、脇は渡辺謙などの名優が固めていて、映画そのものはしっかりとつくられている。だからもう少し、原作の良さを演出側が理解していれば、この作品はさらに面白い青春バンパイアものになっていたはず、だけに、本当に惜しいと感じるばかりだ。