劇場公開日 2008年3月8日

「狂気の愛の仮面を被った者たちの心の触れ合い。」接吻 ジョルジュ・トーニオさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0狂気の愛の仮面を被った者たちの心の触れ合い。

<ストーリー>
坂口は偶然扉の開いていた家に侵入し、一家全員を殺害。その後マスコミに自分が犯人であることを告げ、警察には早く自分を逮捕するように挑発。結果マスコミに自分の逮捕される瞬間を撮影させるが、自ら呼び寄せておきながら一言も語らず、不敵な笑みをカメラに向けるだけだった。

京子は恋人や友人もおらず、家族とも疎遠なため、仕事と家を往復するだけの毎日で、同僚には仕事を押し付けられるような女性。坂口の逮捕の瞬間を偶然TVで見た彼女は、その不適な笑みの意味を理解し、彼に差し入れをしたいと担当弁護士に申し出る。

<個人的戯言>
【♪レ~ジ~メ~♪】
冒頭だけ観れば狂った愛の形のように思えるかもしれません。しかし主人公の女性が殺人者に共鳴したことが、異常に見えなくなってきます。それは、彼女が殺人者に宛てた手紙の数々、この何度となく手紙が綴られるという行為、そして小池栄子の、キレる寸前ギリギリの演技によって、リアリティーが与えられているからです。そしてその後の初めての接見、そして訪れる変化まで、彼女と殺人者役の豊川悦司が、その過程を克明に演じていて、もう完全に違和感はなく、むしろ丁寧な心理状態の描き方に納得。

残念なのがラスト。ある程度予測出来ること自体は問題ないのですが、「それ」が簡単に行われてしまう点が、それまでありえない「リアリティー」を追及してきたのとギャップがあり過ぎて、やや突っ込みどころになってしまいました・・・

【ぐだぐだ独り言詳細】
この手の話は今までにもあったとは思いますが、普通は単なる「狂った愛」とか「異常者の行動」として描かれているものがほとんどだったと思います。それを「理解者」同士の心の触れ合いとし得たのが、主人公から殺人者に幾度となく送られる手紙。リアリティーという点ではおかしいのですが、その手紙を主人公が声に出しながら書いていくことで、徐々にストーリーから、「殺人」という特別な出来事の匂いが消え、普通の心の交流に思えてきます。

更に普通に考えると、複雑な心を抱えているように思える主人公を、小池栄子がキレる寸前の、しかし実は一途な女性の思いを見事に体現しています。彼女の演技を観たのは、たぶん「恋愛寫真」や「2LDK」以来だと思いますが、この2つの作品ではキレまくりの演技を見せていて、それも凄かったです。しかし今回の「すんドめ」具合は更にその上をいってます。そして初めての接見のときの彼女と、豊川悦司がまたいいんです。ネタバレになるのでこれは観て確かめて下さい。

あまりに異常なことのはずなのに、リアリティーのある、それでいて徐々に変化していく展開の経過は、予想されるラストに向かっていくのは簡単に想像が付きますが、それまでが非常に丁寧に描かれていて、二人の演技も素晴らしいので、ネタバレ自体は全然問題ないです。しかし・・・結末はともかく、それが「起こる」ことのリアリティーがあまりにないのが玉に傷です。何ぼほど突っ込みどころがあんねん!っていうくらい、今までのリアリティーの追及とはあまりにかけ離れたその過程・・・何か視聴率が悪く打ち切りになって、無理やり終わらせた連続ドラマの最終回のよう・・・そこだけが惜しい!

ジョルジュ・トーニオ