劇場公開日 2006年4月29日

「カオス男が出会いによって再生する恋物語」愛より強く talismanさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5カオス男が出会いによって再生する恋物語

2021年7月18日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

悲しい

知的

恋物語といってもフワフワでもロマンチックでもない。イェーガーマイスターなんか吹っ飛ぶ位に苦くて辛くて痛くて血もドバドバ出るし死人も出る。二人の出会いの場所はそれぞれの自殺未遂が原因で入院した病院。これほど心の奥を覗きこんで悩んで混乱する深いラブストーリーはないんじゃないかと思った。映画の半分はトルコ語であとはドイツ語、ほんのすこーし英語。舞台はハンブルク、そしてイスタンブール。

若くて美しくしなやかなシベル。自由に生きたい!ただそれだけのことも未婚女性は許されず、家族(男)から暴力をふるわれるのが文化でもあるような保守的なトルコ人家庭。だからこそ脱出=家出を考えて貯金してる。トルコ系移民が相手なら家族も許さざるを得ないから偽装結婚して!とシベルに見込まれてしまった中年男のジャイトは全てがカオス。酒に煙草にドラッグ、飲み屋ではベロベロで客に絡まれたら暴力でお返し、一人暮らしで部屋は荒れ放題、仕事は清掃係、金もない、女友達は居る、妻は死んでしまった。

偽装夫婦上等だ。OKしないとシベルはまた自殺しようとするから仕方ない。結婚式も指輪も部屋のリフォームも自分の娘ほどの年齢のシベルが払った。掃除も洗濯も料理もシベルがやる。それが条件だし自由に生きることができるなら無償の家事なんて楽勝だ。ジャイトが紹介してくれて美容師として働けるようにもなった。

シベル役の女優さんは映画の進行と共にどんどん上手くなっていく。メイクも美しくますます成長して大人になっていく。ハンブルクではロングヘアーでイスタンブールに行ってからはベリーショート、すごく似合っていた。後半メガネをかけてる姿にはドキッとした。一方ジャイトは成長というより再生していく。だんだん穏やかになる。でもそうなるまでは大変だった。シベルに恋した気持ちに向かい合ってどうしていいかわからず混乱する場面はずん!と心に来た。

邦題はいつでも大変だと思う。原題はGegen die Wandだから「壁にガツーン」!ジャイトはそうやって自殺しようとしたし、二人とも色んな壁にガンガンぶつかりながら成長して再生した。映画の途中、イスタンブールの湾をバックにトルコの音楽が6名から成るバンドで演奏され、中央の女性がトルコ語で恋の歌を歌うシーンが何度も挟まれる。脳天気なようで心に沁みるようで故郷を想うようで、複雑で不思議な感情に襲われた。

とにかくハードな恋物語だった。

ジャイト役のビロル・ユーネルは2020年9月3日に59歳で亡くなっていた😭この映画での設定と同じくユーネル自身もトルコはメルスィンの出身。もっと彼の芝居を観たかった💧

おまけ
「ソウル・キッチン」出演者がたくさん!ジノスは優しいバーテンダー役、アル中でさすらいシェフのシェインがこの映画のカオス男ジャイト、税務署のタフな女シュスターはジャイトの「お友達」役。なかなか素敵なキャスティング(彼女は「コリーニ事件」では裁判長役!)。

talisman