「逃げ場などはじめからどこにもない」受取人不明 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
逃げ場などはじめからどこにもない
延々と広がる貧相な田園風景と、それを囲繞する米軍基地。冒頭から異様なまでの閉塞感がスクリーンを覆い尽くす。どこへも行けないことをあらかじめ運命づけられた人々は衝動的に暴力を振るったり過去の栄光に浸ったりすることでひとときの慰めを得る。3人の若者たちはそうした阿片中毒患者のような生き様からは意図的に距離を置こうとする。絵を描いたり子犬と戯れたり上司の理不尽に抵抗したり、各々が各々のやり方で村を覆い尽くす不吉な重力から逃れようともがく。しかし彼らの抵抗をあざ笑うかのように、より強大な暴力と貧困が彼らの足を絡め取る。米兵との混血児であるチャングクは、帰らぬ夫を待ち続ける母親のもとを去り自ら命を絶つ。米兵の計らいで右目の視力を取り戻したウノクは彼の前でもう一度右目を潰す。ウノクに密かな恋心を寄せるチフムは彼女と密通する米兵を矢で射抜き監獄へ送られる。どこにも逃げ場はない。それが70年代の韓国という空間なのだ。
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