西部に賭ける女のレビュー・感想・評価
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旅芸人一座の看板女優を演じる若きソフィア・ローレンの魅力
イタリア映画を代表するソフィア・ローレンは、出世作「島の女」(1957年)の頃からハリウッド映画にも出演する経歴を持つ国際的スター女優として人気を誇っていました。それから3年後の25歳の時、ヴィットリオ・デ・シーカ監督作品「ふたりの女」の演技でカンヌ映画祭とアカデミー賞の二冠始め多くの名誉に輝いた1960年の最初に公開された今作は、アメリカ映画界の女優演出のエキスパートと言える名匠ジョージ・キューカーが監督を務めています。デビュー当時から、その豊満な肉体と艶めかしい曲線美に注目が集まりながら、演技自体にもスケール感と表現力の豊かさを兼ね備えていました。そして、この広範囲な活躍が続いた理由には、後に私生活のパートナーとなるイタリア映画界の大物プロデューサー、カルロ・ポンティ(1912年~2007年、「道」「鉄道員」「ふたりの女」「軽蔑」「ドクトル・ジバゴ」「欲望」「ひまわり」)の存在が大きい。製作者ポンティと監督キューカーが女優ソフィア・ローレンに賭けた映画としての見所が鑑賞のポイントになる作品です。初見はソフィア・ローレンのファンだった高校2年生の時のテレビ鑑賞でした。見直してみて記憶にあるシーンが無かったものの、映画日記には長短両方を簡単に記録していて、今回の印象とあまり変わらないものでした。
若さ溢れるソフィア・ローレンの演技は、まだ粗削りながら女優としての資質を感じさせます。その魅力は特に正装した時の美しさにあり、キューカー監督の演出によって際立っています。ネブラスカから逃げてワイオミングのシャイアンの劇場に姿を現すカットは、足元からゆっくりティルトアップして濃い紫色のドレスをまとい、顔の下半分にフェイスベールを掛けて小さく見せる可愛らしさ。後半ではボナンザの有力者でギャングの親玉の裏の顔も持つデ・レオンに対峙するために装う赤い上着姿は、そのウエストの細さを強調して人形のような可愛さを交渉に活かす戦術の賢さがあります。相手役アンソニー・クインも男のプライドと繊細さを併せ持つ旅芸人座長役を無難に好演して、息の合った演技を見せます。この俳優兼演出家のトム・ヒーリーと看板女優アンジェラ・ロッシーニの間に入って、殺し屋クリント・メイブリーが恋の鞘当てを演じる主要登場人物3人のストーリーそのものは、紆余曲折あって楽しめます。まず劇団得意のレパートリーの史劇「トロイのヘレン」が不倫ものと知って上映禁止にする劇場主サムの言い訳が面白い。市長が奥方の浮気相手を射殺しても誰も咎めなかったから、不貞では笑えないと。それに対して、ヒーリーが殺人が良くて不貞が駄目なのかと驚くのも可笑しい。替わって「マゼッパ」を上映して、全身タイツ姿のアンジェラが馬の背に括られるクライマックスの迫力で好評を得る展開が、映画クライマックスの伏線になるところは予想が付くも定石でしょう。採掘利権を奪うレオンの手下で殺人を犯したメイブリーの報奨金5000ドルの受け取りにアンジェラが行き、その資金で採掘組合ホールをヒーリー劇場に改装する展開がいい。そこで惜しいのは、中間部のキューカー監督の演出の緊迫感の弱さでした。アンジェラが借金返済にポーカーで全財産を掛け、それでも足りず自分の体まで差し出すシーンの緊張感があっさりしています。賭けに負け、2台の馬車で逃げる途中でアパッチ族に襲われるシーンも西部劇としては凡庸な演出でした。劇団の宝である馬車が燃やされるシーンにもっと悲運の想いがあっていいし、雪山を越えてボナンザの町に辿り着くシークエンスも、映像の迫力の点で不足があります。
配役ではメイブリーを演じたスティーブ・フォレストが主演の2人と比べて弱いのは仕方ないですが、マカロニ・ウェスタンのフランコ・ネロの雰囲気に近い印象を持ちました。西部劇に合ったキャラクターを持っています。実兄のダナ・アンドリュースとはあまり似ていません。劇団員のデラ・サウスビーのマーガレット・オブライエンとローナ・ハサウェイ夫人のアイリーン・ヘッカートの親子役は息がピッタリの好演でした。「若草物語」の子役で有名なオブライエンは22歳になって、ヒーリーを誘惑する大人の演技に挑戦と言うところでしょうか。ヘッカートは如何にもベテランのそつが無い演技で、他に「傷だらけの栄光」「バス停留所」「黒い種子」「下り階段をのぼれ」などに出演しています。悪役として印象に残るデ・レオンのラモン・ノヴァロは、メキシコ出身のサイレント時代の大スターでした。ルドルフ・ヴァレンティノ亡きあとのセックス・シンボルの美男スターということです。この時代の美男スターは、日本の早川雪州やイタリアのヴァレンティノのように、アメリカ人から見てエキゾチックな雰囲気の二枚目が持て栄やされていたようです。26歳のノヴァロが主演したフレッド・二ブロ監督の「ベン・ハー」(1925年)を今日VODで観られるのはありがたいことです。同じくサイレント時代のスター、エドマンド・ロウがマンフレッド・ドク・モンタギュー役でいい味を出しています。この時69歳の最晩年の出演作のようです。代表作の一本、ラオール・ウォルシュ監督の「栄光」(1926年)にラモン・ノヴァロの従兄弟ドリス・デル・リオと共演しています。見逃して惜しい映画のひとつです。
西部劇から多岐にわたるジャンルで代表作を残した大家で人気作家のルイス・ラムーアの原作を、ウォルター・バーンスタインと言う人と共同脚色したダドリー・ニコルズは、ジョン・フォード監督の「男の敵」「駅馬車」で有名ですが、この映画公開の2ヵ月前に亡くなっていて、これが遺作のようです。このストーリーの面白さを、コメディとして楽しめる映画にしたかったのか、活劇としての西部劇にしたかったのか、そのコンセプトが曖昧でした。ソフィア・ローレンの若々しく個性的な美しさの魅力を充分に感じられるキューカー監督の演出の良さを認めつつ、作品の出来としては平均に収まった評価に止まります。このローレンを更に美しくみせた衣装は、イーディス・ヘッドのものです。「女相続人」「イブの総て」「陽のあたる場所」「サムソンとデリラ」「ローマの休日」「麗しのサブリナ」「The Facts of Life」そして「スティング」でアカデミー賞の衣装デザイン賞を受賞した偉人でした。
一気に華やぐソフィアローレン
プレ・マカロニウエスタンの隠れた名作西部劇
ソフィア・ローレン、アンソニー・クイン共演の異色ウェスタン。
トム・ヒーリー(クイン)率いる旅芸人一座は借金取りから逃れるため、はるばる西部(ワイオミング州)の町シャイアンへと逐電。
ここで一儲けしようとギリシア史劇を題材にした歌劇『トロイのヘレン(美しきエレーヌ)』のリハーサル中、地元の無教養な劇場主からダメ出しされ、もっと派手な演目をと要求される。
代わりに上演した中世ウクライナが舞台の『マゼッパ』で、実物の馬を使った演出がふだん歌劇とは無縁の西部の聴衆から喝采を浴びる。
一座の花形アンジー(ローレン)も劇場主に気に入られ、腰を据えようと思った矢先、借金取りに追いつかれて結局ここも夜逃げする羽目に。
だが、美貌のアンジーは悪徳資本家デ・レオンの依頼で「仕事」に来ていた殺し屋メイブリー(スティーブ・フォレスト)にも目を付けられていて…。
本作は多くの媒体でコメディ西部劇に位置づけられているが、これがコメディだと言うなら、『続・夕陽のガンマン』(1966)や『南から来た用心棒』(同)だってコメディ。
従来の西部劇ではタブーだった撃つ側と撃たれる側を同時にフレームインさせる場面は出てくるし、流血シーンも当たり前。倒れた相手へのとどめ撃ちだって躊躇しない。
ガン・ファイトで射殺された人間(要するに死体)との記念撮影に東部から来たトムとアンジーは顔をしかめるが、西部開拓時代には普通に行われていたこと。
多くのリアリズム描写や共同製作の二人とS・ローレンがイタリア人だから、敢えてカテゴライズするならプレ・マカロニウエスタン作品が妥当かも。
作中登場する先住民(アパッチ)も上半身裸のステレオタイプな描かれ方ではない。
仲間の報復に現れた一団は遺棄された舞台の衣装や小道具に狼藉をはたらくが、問答無用でメイブリーに殺された最初の先住民はいきなり襲ってきた訳ではなく、死体で発見された御者だって本当に先住民に殺されたのか疑わしくなる。
西部の風潮自体が野蛮に見える東部人の主観で描かれている点では、名作西部劇『大いなる西部』(1958)と同じ。
同作でグレゴリー・ペック演じる船乗りのマッケイ同様、本作のトムも銃を持つことを嫌うが、やはり腕っ節は強くてメイブリーを素手で殴り倒してしまうほど。
監督は女性が主体の名作を数多く手掛けた名匠ジョージ・キューカー。本作でも客演のソフィア・ローレンを芯の強い自発的な女性として好演出。当時二十代半ばの彼女の魅力はもちろん、『マイ・フェア・レディ』(1964)ほどではないが、衣装も美しい。
西部劇なのにオペレッタが登場するのは、舞台演出で腕を磨いた監督ならではの目配せか。
共同製作のひとりカルロ・ポンティはS・ローレンの未来の夫にして数々の有名作品を世に送り出した大物プロデューサー。
A・クイン主演の『道』(1954)も、ローレンの『ひまわり』(1970)も彼の製作。
もう一人のマルセロ・ジローシはほかにもポンティとのコンビが多く、『黒い蘭』(1958)では本作に先駆けてクインとローレンの共演を実現。ローレン主演作の製作も多数。
座長のトムを演じたのは名優アンソニー・クイン。古くから西部劇映画に関わってきた彼には、オール北米ロケのマカロニ・ウエスタン『サンセバスチャンの攻防』(1968)なんて珍品も。S・レオーネ監督の『ウエスタン』(同)より凄いぜ!
サウスビー役のマーガレット・オブライエンは子役出身でローレンより三つ年下。見た目はチャーミングだが、二十歳前でアル中気味という設定が笑える。
メイブリー役のS・フォレストは、とおった鼻筋に青い瞳と整えた口髭が後年のフランコ・ネロを彷彿とさせるが、二大俳優の前では芝居の甘さが際立つのが残念。
NHK-BSにて今回初視聴。
ソフィア・ローレン
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