「プレ・マカロニウエスタンの隠れた名作西部劇」西部に賭ける女 TRINITY:The Righthanded Devilさんの映画レビュー(感想・評価)
プレ・マカロニウエスタンの隠れた名作西部劇
ソフィア・ローレン、アンソニー・クイン共演の異色ウェスタン。
トム・ヒーリー(クイン)率いる旅芸人一座は借金取りから逃れるため、はるばる西部(ワイオミング州)の町シャイアンへと逐電。
ここで一儲けしようとギリシア史劇を題材にした歌劇『トロイのヘレン(美しきエレーヌ)』のリハーサル中、地元の無教養な劇場主からダメ出しされ、もっと派手な演目をと要求される。
代わりに上演した中世ウクライナが舞台の『マゼッパ』で、実物の馬を使った演出がふだん歌劇とは無縁の西部の聴衆から喝采を浴びる。
一座の花形アンジー(ローレン)も劇場主に気に入られ、腰を据えようと思った矢先、借金取りに追いつかれて結局ここも夜逃げする羽目に。
だが、美貌のアンジーは悪徳資本家デ・レオンの依頼で「仕事」に来ていた殺し屋メイブリー(スティーブ・フォレスト)にも目を付けられていて…。
本作は多くの媒体でコメディ西部劇に位置づけられているが、これがコメディだと言うなら、『続・夕陽のガンマン』(1966)や『南から来た用心棒』(同)だってコメディ。
従来の西部劇ではタブーだった撃つ側と撃たれる側を同時にフレームインさせる場面は出てくるし、流血シーンも当たり前。倒れた相手へのとどめ撃ちだって躊躇しない。
ガン・ファイトで射殺された人間(要するに死体)との記念撮影に東部から来たトムとアンジーは顔をしかめるが、西部開拓時代には普通に行われていたこと。
多くのリアリズム描写や共同製作の二人とS・ローレンがイタリア人だから、敢えてカテゴライズするならプレ・マカロニウエスタン作品が妥当かも。
作中登場する先住民(アパッチ)も上半身裸のステレオタイプな描かれ方ではない。
仲間の報復に現れた一団は遺棄された舞台の衣装や小道具に狼藉をはたらくが、問答無用でメイブリーに殺された最初の先住民はいきなり襲ってきた訳ではなく、死体で発見された御者だって本当に先住民に殺されたのか疑わしくなる。
西部の風潮自体が野蛮に見える東部人の主観で描かれている点では、名作西部劇『大いなる西部』(1958)と同じ。
同作でグレゴリー・ペック演じる船乗りのマッケイ同様、本作のトムも銃を持つことを嫌うが、やはり腕っ節は強くてメイブリーを素手で殴り倒してしまうほど。
監督は女性が主体の名作を数多く手掛けた名匠ジョージ・キューカー。本作でも客演のソフィア・ローレンを芯の強い自発的な女性として好演出。当時二十代半ばの彼女の魅力はもちろん、『マイ・フェア・レディ』(1964)ほどではないが、衣装も美しい。
西部劇なのにオペレッタが登場するのは、舞台演出で腕を磨いた監督ならではの目配せか。
共同製作のひとりカルロ・ポンティはS・ローレンの未来の夫にして数々の有名作品を世に送り出した大物プロデューサー。
A・クイン主演の『道』(1954)も、ローレンの『ひまわり』(1970)も彼の製作。
もう一人のマルセロ・ジローシはほかにもポンティとのコンビが多く、『黒い蘭』(1958)では本作に先駆けてクインとローレンの共演を実現。ローレン主演作の製作も多数。
座長のトムを演じたのは名優アンソニー・クイン。古くから西部劇映画に関わってきた彼には、オール北米ロケのマカロニ・ウエスタン『サンセバスチャンの攻防』(1968)なんて珍品も。S・レオーネ監督の『ウエスタン』(同)より凄いぜ!
サウスビー役のマーガレット・オブライエンは子役出身でローレンより三つ年下。見た目はチャーミングだが、二十歳前でアル中気味という設定が笑える。
メイブリー役のS・フォレストは、とおった鼻筋に青い瞳と整えた口髭が後年のフランコ・ネロを彷彿とさせるが、二大俳優の前では芝居の甘さが際立つのが残念。
NHK-BSにて今回初視聴。