劇場公開日 2024年9月27日

「尺を乗り切る緊迫感」甘い人生 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0尺を乗り切る緊迫感

2020年7月11日
PCから投稿

この映画はキムジウンの最高作でビョンホンの代表作だと思う。
韓国ノワールにはヤクザの非情さと同時に、韓国社会が基調的にもっている不人情があらわれる。誰もが一匹狼。同情や依頼心が身を滅ぼす。それが映画に切実な緊張を与する。ラストスタンドが普通なアクション映画になっていたのは道理で、ハリウッドシステムではノワールが描けない。
個人的に韓国映画のベスト1のひとつ。

繰り返し見ることができる映画で、どのシークエンスにも濃い密度がある。豪腕な演出力で、長さを貫通して緊迫感が持続する。リアルな映画だが、ソヌ室長(ビョンホン)は超人的なスタミナの持ち主で、吊られてナマス切り、生き埋め、腹部メッタ刺しの窮地を脱し、一騎当千の立ち回り。リアリティを維持しつつ娯楽の枠を外さない。

導入部からスタイリッシュ。
閉店間際の広いラウンジで室長が悠然とムースショコラみたいなのを食べている。そこへ帰ってくれない与太者の報告、ちょっと問題がありまして……来てもらえませんか……。アラッソヨ。そこからロールと室長の足取りが同時進行する。ラウンジを横切り、ロビーから裏へ、厨房を通り地階へ、用心棒の詰所で若いのを拾って問題客の特別室へ。「すいません営業終了です3つ数える間に出て下さい」徒手空拳で三人の与太者を伸ばして、社長に営業終了の報告。エスプレッソ。何度見ても飽きないプロローグ。

一個惜しいのは、ソヌが組織から狙われるきっかけとなった、カン社長の愛人に、さほど魅力が感じられないこと。シンミナはきれいな人だが、清純型で、風に揺れてしまうほどではない。ヒョジュ、イェジン、ウンチェあたりならわかる。藤井美奈でもよかった。まあ好みの問題であってconsではない。

韓国へ行ったことはないのだが、韓国映画でしばしば屋台を見る。いろいろあるのだろうが、気になるのが、異様に長い串に刺さった、ふやけた食べ物。寒いときにいい感じで、ホクホク食べるのを映画で何度か見たことがある。
この映画でも、この何か知らない串のおでん風の食い物をビョンホンが食べるシーンがあるのだが、これが死ぬほどかっこいい。食べ慣れと、食べ飽きと、食事中の動物のような警戒心が同時にあらわれる。
旅行できる身分ではないのだがもし韓国へ行ったら一番やりたいのがこの謎の茹でものを食べることだ。

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津次郎