春夏秋冬そして春のレビュー・感想・評価
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【人生の喜怒哀楽をある男の幼少期から壮年期の姿を通じ湖上の老寺を舞台に描き出す、キム・ギドク監督の哲学的で静的な作品。人間の生と死は輪廻であり、年が経ても自然は変わらずに春夏秋冬を迎えるのである。】
<Caution!内容に触れていますが、今作に限っては問題は無いと思います。>
■春
山奥の湖に浮かぶ寺で暮らす老僧(オ・ヨンス)と幼子。幼子は無邪気な悪戯から魚に石を抱かせて殺め、それを見ていた老僧は彼の寝ている間に石を背負わせ、罪を気づかせようとする。
■夏
やがて幼子は青年となり寺に静養に来た少女に恋をする。二人は若さ故に、性交を重ねる。その姿を老僧は静かに見ているが、少女に気の病が癒えたのならば、寺を去るように諭す。そして少女が寺を去るや、彼も出奔する。
■秋
青年(キム・ヨンミン)は、血の付いた刃を持って寺に帰って来る。憤怒の相を浮かべた青年は、妻になった少女の裏切りが許せずに、妻を殺めて逃げて来たのである。
そんな青年に、老僧は寺の床に般若心経を書き、青年にその字を刃で彫るように命じる。
刑事が二人来て、般若心経を彫り終えた青年を連れて行くが、青年の表情は穏やかになっている。
■冬
老僧は死期を悟り、湖面に舟を出し目鼻口に”閉”と書かれた紙を貼り、舟の中に組んだ薪に火を放つ。
その後、壮年になった男(キム・ギドク)が寺に戻って来る。
男は、身体の鍛錬を始める。
凍り付いた湖上を歩いて、緑の絹で顔を覆った女が幼子を抱いて寺にやって来る。そして、女は帰る際に湖上の穴に落ち絶命する。
■再び春
男は、且つての自分にそっくりな幼子の小僧と過ごしている。
◆感想
・キム・ギドク監督作は数作観て来たが、どれも強烈なインパクトを齎す作品であった。狂気に駆られた妻が、息子の局部を切り取ったり、南北朝鮮の国境沿いに住んでいた漁民が国境を越えてしまった事から数奇な人生を歩んだり。
どれも、キム・ギドク監督の数奇な人生を彷彿とさせる如き作品で、とても面白く鑑賞したモノである。
・今作は、キム・ギドク監督の比較的初期作品であるが、”生と性と死。人生の喜怒哀楽”を”山奥の古寺を舞台に静的トーンで描いている。
そこには、哲学的な要素も数々垣間見える。
<今作は、若きキム・ギドク監督の哲学的で静的な面が表に出た作品であると思う。人間の生と死は輪廻であり、年が経ても自然は変わらずに春夏秋冬を迎えるのであるというメッセージも伺える。
改めて、キム・ギドク監督の制作する作品の幅広さを知った気がする作品でもあると思う。>
キム・ギドク最高傑作
食わず嫌いにならないで......
キム・ギドク監督は、図抜けた演出力で観客をひきこむ問題作を常に発表し続けている、韓国映画界の星のひとり。しかし、あまりに個性が強すぎることから、一本見たらもういい、と言う映画ファンも多いようです。
そんな、キム・ギドク映画嫌いの方でも充分にこの監督の演出の素晴らしさを堪能できるのが、この作品なのです。
美しい山々の風景の中にたたずむ湖に浮かぶ古寺が、まるで童話の世界のように神秘的に感じる、見事なオープニングから一気に観客の心は引き込まれます。その全編を通した映像美から描かれるのは、恨みや情によって惑わされる人間の一生の物語。キム・ギドク監督は、特に説教くさい演出などせず、登場する古寺の住職と同じように、物静かに悪をたしなめ、人間の業を美しい湖の風景の中で見つめます。キム・ギドク監督の作品には、時に怒りや狂乱が見られる場合もありますが、この作品では、怒りや狂乱も美しい風景の中に沈み、ただも、癒しの空間が残るのみ、というのが、何より魅力的なところです。
キム・ギドク監督の作品が苦手な方は、特に、この作品を見て、あらためてこの監督の才能の凄さに感心してほしい、切に願うばかりです。
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