「隔絶ぶりを強調するものとしての「フレーム外」」ヴァンダの部屋 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
隔絶ぶりを強調するものとしての「フレーム外」
解体の進むスラム街を捉え続けるカメラ。そこに住まう人々のどん詰まりの日々だけが淡々と映し出される。狭い部屋、狭い路地に固定されたフレームは最後まで決して動かない。空や海や地平線といった視線の逃走経路は予め閉じられている。
動かないフレームの代わりに、本作では音響効果に技巧が凝らされている。四方3メートル程度のヴァンダの部屋には外部(フレーム外)からの音が絶えず鳴り響いている。解体工事の音、住人たちの会話、子供の泣き声。
こうした音の演出は映画の空間的豊穣を謳い上げると同時に、ヴァンダらスラム街の住人たちの隔絶ぶりをことさらに強調する。
素晴らしい照明効果についても言及する必要があるだろう。暗い部屋の中に閉じ篭もる人々に時折降り注ぐ光の不気味な柔らかさ。さながらレンブラントの絵画のような迫真性があった。
暗室のショットから屋外のショットに繋がる際の唐突な画面輝度の変化は自動車でトンネルの外に出たときのような幻惑を生じさせる。ヴァンダたちが暗く狭い部屋に引きこもり続ける理由をこうした輝度の落差によって裏付ける演出力には舌を巻いた。
ただ、やはり尺が長すぎるんじゃないかと思う。私自身に堪え性がないからといえばそれまでだが、180分という長尺に必然性を感じることは残念ながらできなかった。
あと咳をし続ける人ってどうしてこんなに苛立たしく感じてしまうんだろう?
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