「オーディールを妻として守らんとしたイヴァンの成長に目を奪われました」かげろう(2003) きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0オーディールを妻として守らんとしたイヴァンの成長に目を奪われました

2019年7月29日
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鑑賞方法:DVD/BD

《ネタバレ》です

戦時中、フランスの田舎を避難していく母子の数日の物語。
秀作です。

フランス映画は台詞がしみます。言葉に含蓄があります。そして度々返事をしない母の無言がまた、女として母として窮地に立たされている彼女の呆然とした心情をとてもよく表しています。

息子フィリップ。
父の戦死を子供ながらに受け止めて母親を支えようとする息子フィリップの健気さに、胸が締め付けられるんですよ。
僕はいつしか「戦死した父親目線」でこのフィリップを見ていたかもしれません、フィリップをねぎらい抱きしめてやりたい思いで涙がこぼれました。
大人の男のように母親を支え、母親を諭し、潜り込んだ空き家の手紙を盗み読みする母をたしなめるこの息子の言葉のくだりと言ったら!
でもまだ隠れて泣いているんだし、お母さんの胸にもたれかかりたい子供なんですよね。

そして、母子を助けたイヴァン(ギャスバー・ウリエル)の若いこと。無鉄砲な若者の落ち着きのない動作の演じ方は天才と思います。
育ちが悪くて家庭生活も知らないこの粗野なイヴァンに座って食事をすることや、文字の書き方や、そして矯正施設での男の体しか知らなかったイヴァンに・・

教師であったオーディールに「器用だ」「賢い」と生まれて初めて褒められたのであろうイヴァンのステップと背中に皆さん気付きましたか?イヴァンもね、本当はお母さんをまだまだ必要としていた17才の子供だったのですよ。

暗転の最後はつらい。
“かげろう”の日々は過ぎ去る。

その青年イヴァンの死を伏せて
我にかえって「娘カティはどこ」と聞く母親オーディール。
“女”である自分を保留し、“妻”であった自分を諦め、なんとかして残された子供たちを守らなければならない我に戻った“未亡人”の母親が、たった独りそこに残されて映画が終わります。

「ひまわり」とか「禁じられた遊び」とか、そして「この世界の片隅で」とか、
地味で目立たないけれど庶民の生活を追い詰めていった戦争の罪と悲しみの姿ですね、これ。

一生忘れられない作品となりました、
kossy さんオススメありがとうございました。
イヴァンは、ジャン・デルマスだったんですね。

きりん
きりんさんのコメント
2022年1月23日

ギャスパー・ウリエル
2022.1.19.訃報。37歳、スキー事故とのこと。

きりん
kossyさんのコメント
2019年7月29日

どうもありがとうございます。
レビュー読んでて泣いてしまいそうになりました。
かなり前に観たので、正直忘れてる部分もあって、
記憶を補ってくれました。
戦争を背景に描くと秀作が生まれますよね~

kossy