「掃き溜めに鶴」ツバル TUVALU odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
掃き溜めに鶴
サイレント、モノクロをベースとし悲劇とも喜劇ともつかない突飛な構想、好みは人それぞれでしょうが、映画のもつ多様性の一つと言う意味では異彩を放っていることは間違いありません。
製作・脚本・監督のファイト・ヘルマーは当時31才、無声短編映画で注目され初の長編に挑みました。実験映画的で俳優も多国籍でドイツ人の出てこないドイツ映画と言うことで当初は国内での資金集めにも窮したようです。
本作の室内温水プールを舞台にした物語の構想は監督が19才の時に行ったハンブルクの古いビスマルク浴場で思いついたと語っていますから随分温めていたのですね。
無声映画に拘るのは映像こそが世界の共通語足りえるという信条の様です、ただ演出がどうしてもオーバーアクションや暴力、破壊シーンの多用、エキセントリックに寄ってしまうのでは古典をなぞっているようで工夫が見えません。
朽ちかけた建物や船の墓場など痛々しい情景、登場人物は大方が老人、浮浪者。
主役の青年も親に軟禁され外界を知らないチェリーボーイですがどう見ても中年親父で顔は猛禽類に近くキモいです、加えて下着泥棒やビニールのダッチワイフを抱いて寝るのでは変態そのものでしょう、父が盲人ですがそれを笑いのネタにするのでは監督の知性を疑います。
骨肉の争いではありませんが兄がヒール役、強欲で破壊者、面相からして嫌われ役を絵に描いたよう。醜美のコントラストの強調が狙いなのでしょう、掃き溜めに鶴ではありませんが紅一点のヒロイン役はフィギュア・スケーター出身、スタイル抜群のロシア美女、惜しげもなく全裸で金魚と泳ぐシーンがポスターにも使われ、唯一言語に依らないプロモーションの機能を果たしていますね。
そんなキモいおじさんと美女が結ばれて夢の島ツバルを目指して古いタグボートで旅立つのですが、宣伝文句にこれをファンタジーとは強弁でしょう、ただヒロインの魅力が際立っているので異種のアリス・イン・ワンダーランド(老朽の地?)風と見えないことも無いですね・・。