「ナチスの手先になったフランス少年の最初で最後の本気の恋」ルシアンの青春 Gustav (グスタフ)さんの映画レビュー(感想・評価)
ナチスの手先になったフランス少年の最初で最後の本気の恋
深い感動に包まれた作品でも、いつの間にか関心も興味も持たれなくなり誰からも話題に上がらない映画は数多くあります。常に今生きている人間や社会の姿を描くことが映画の宿命であり使命であり魅力だから当然なことですが、自分だけはいつまでも大切にしていたいと思うのもまた人間の心情です。このルイ・マル中期を代表する「ルシアンの青春」は、私にとってそんな映画の中の一本になります。
レジスタンスではなく、ゲシュタポの手先になった17歳の幼く浅薄なルシアンの初めての恋の相手がユダヤ人の女性。マル監督は情感を排した冷静で客観的な視点で、少年の愚かさと一途さを描きます。それまで受動的なルシアンが本気の恋で変わり、男として成長することで追い詰められていく。その哀れさ。ピエール・ブレーズとオーロール・クレマンが、逃げ場のない恋人たちを素朴に演じます。ラストのスペイン国境近くの山中で過ごす穏やかで幸せな安らぎが、何ともいえない世界観を表現します。ドキュメンタリーで映画デビューしたマル監督の最良と云える映像美ではないでしょうか。公開当時に荻昌弘氏がこの場面をドビッシーの「牧神の午後への前奏曲」のイメージで例えていたのが記憶に残っています。
映画大学の授業でルイ・マル教授による映画理論の講義を受けているかの堅苦しさもありますが、味わい深い主題と表現の厳しさに、私は感動しました。
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