「白人化した黒人像」夜の大捜査線 Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
白人化した黒人像
総合75点 ( ストーリー:75点|キャスト:80点|演出:70点|ビジュアル:70点|音楽:70点 )
適当に見かけた人物を捜査もせずにとりあえず引っ張ってくることからして、当時の警察の水準の低さがわかる。多分これは大袈裟な話ではなくて、実際そうだったのだろう。
そしてそこに巻き込まれた黒人刑事が南部の人種差別にあいながらも論理的に捜査をしていく過程で、南部の田舎者丸出しの警察署長が今までのいきあたりばったりな出鱈目な捜査と黒人への偏見を見つめなおしていく姿が良い。彼は初めて黒人を1人の対等な人として認めて信頼をする。変わっていく彼の姿と今までの彼の人生や人柄までが描かれて存在感があった。初めて観た時は差別に負けず事件に取り組む優秀なシドニー・ポワチエに好感が持てたが、今観てみると人間臭い署長のロッド・スタイガーが印象に残った。
この署長だけでなく、アメリカが黒人を元奴隷の劣等人種でもなく可哀想な人たちでもなく、対等な人なんだと認識し始めた時代の象徴的な作品なのではないだろうか。
黒人は白人とは違う。だから人種差別が残る。しかしシドニー・ポワチエは南部で白人の下でみすぼらしい作業着を来て低賃金で農作業をするのではなく、白人同様に背広を着て犯罪捜査をする頭脳明晰な刑事であり、しかも白人よりも優秀だ。彼は肌の色は黒いのだが、立ち振る舞いも能力も白人であり、白人と同化しつつある。黒人としての文化や価値観を捨てて白人と同化してしまえば、違いは肌の色だけであり差別の対象というには違いが少なくなる。それがこの時代の差別撤廃であり平等である。
そんな時代と黒人像を表したのがシドニー・ポワチエであり本作品であろう。1962年の「アラバマ物語」では、まだ黒人は一部の正義の白人が守るべき可哀想な存在でしかなかったが、ここでは白人化すれば対等になった。白人化するのを否定し黒人であることを前面に押し出して白人と対等の信頼と友情を主張するのは、エディ・マーフィーの登場までもう暫く待たなければならない。映画からでも歴史が垣間見れる。